82.コスパが悪過ぎる
「なあ、リッカ。金貨って銀貨何枚?」
「100枚」
「ひゃ……へえ」
「ティーカップを3回割っても大丈夫よ」
貴族社会ではワイン1杯が銀貨1枚からだとリッカに言われ、
俺は金銭感覚をリセットせざるを得なかった。
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マス料理の店でテーブルマナー講習を受けたが、
様式は多少違えど俺の方が洗練されており、リッカを驚かせた。
「あなたのいた世界は一体どんなところなのよ……」
「教えたら多分嫉妬で気が狂うぞ」
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トーチたちは馬に乗って練兵場から戻ってきた。
ロガは兵士時代より上等な支給品に満足し、
ジェイはショートソードが頼りないと愚痴をこぼす。
長身のトーチはマント姿が映え、隻腕と相まって
ゲームのURキャラのような風格を漂わせていた。
「俺たち、昔に戻ったみてえだな」
「頼もしいな。ところで俺の名前なんだが、訳あって旅行中はハイズマンと名乗るから気を付けてほしい」
「リッカは一応貴族の娘だから、お相手が庶民じゃ具合悪いってか?」
「そういうことさ」
「いいさ。俺たちも貴族の御付きとして身なりを整えたんだから、皆なりきっていこうぜ」
ジェイは細かいことは気にしない男だ。
三人は「いつでも行ける」と胸を張った。
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そして、仕立て屋が服を届け、出発の前夜をリッカと過ごしている。
アズィのプランに不審な点はなく、それが却って不気味だが、
こうなったらなるようにしかならない。
届けられた衣装は双子に匹敵する上等なもので、
リッカが試着している緋色のオーバーチュニックや
彫刻された銀製の腕輪は、薄暗い部屋でも圧倒的な存在感を放っていた。
俺はダークグレーの羅紗の長衣に白テン毛皮のベルト、
金の留具の付いた刺繍入りのマントはシルク製だった。
そうした衣装が何着も納められた長もちの総額がいくらなのか知らないが、
イセカイジン1人を密航させるにしてはコスパが悪すぎる気がする。
だが、男の正体が不明なため憶測すら浮かばなかった。
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「さあ、そろそろ寝ましょう」
ミードを飲み、俺の酔いが回るのを見たリッカが優しく言った。
「こうなったら旅を満喫してやろう」
「そうだな。ひとまず考えるのはやめて、できるだけ今を楽しむことにするよ」
俺たちは衣装を脱ぎ、そのままベッドに潜り込んで
新婚らしい夜を過ごした。
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