80.門出
それから幾日も判で押したような日が続き、
待ちに待ったマリオからの手紙が届いた。
マリオは仕事が忙しく本格着手はできなかったが、
街で少し売ってみたところ手応えは十分だったようで、
「ぜひ寄越してくれ」と書いてあった。
さらに、俺が軍の早馬を使える身分になったことを驚き賞賛しており、
マリオの中での俺の社会的地位は、いつの間にか貴族になっていた。
手紙にはヨーニール商会の訪問許可申請書が同封され、
街に入る際の手続きや注意書きが細かく書かれている。
几帳面なマリオらしい。
「ついに超難関クエストクリアしたぞ!」
リッカは変な顔をしたが、
俺の謎ワードは理解する必要がないと最近はスルーしている。
ただ、待っていた手紙なのは分かっているから、
笑顔で俺の成果を一緒に喜んでくれた。
「審問官が間もなく来るから、いよいよね」
「ああ、門出だ」
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翌日、審問官が来てエルマは無事釈放され、ゴイのところへ戻った。
追放は10日以内の退去だったが、
ゴイが荷物をまとめていたため、エルマは翌日には発つと言った。
俺はエリンヒャの許可申請書に加え、
持っていた地図と銀貨3枚を手渡し、
「ヨーニール商会から預かった旅費だ」と嘘をついた。
これで雪で足止めされてもなんとかなるだろう。
「見送りは禁止らしいから、これでひとまずお別れだな」
ゲッフェンの小屋の前で、最後の挨拶をした。
「あ、ありがとう、ご、ございます」
「カゾヤマ、箱庭から出してくれてありがとう」
「出したんじゃない。自分で出るんだ」
「門出……そうだった、ごめん」
「俺は、そこはこだわる」
「アハハ」
エルマが声を出して笑った。
その笑いは、今までの怯えた笑顔とは違い、
“外の世界へ踏み出す人間の顔”になっていた。
ゴイも同じだった。
エルマを見ながら泣き笑いをしている。
妹の未来がようやく動き出したことを、
心の底から喜んでいるのが分かった。
「じゃあ、気を付けてな」
俺は二人を抱きしめ、肩を軽く叩いた。
モズの時と同じく、未練が湧かないうちに別れた。
別れ際、エルマが小さく手を振った。
その手は震えていたが、
その震えはもう“恐怖”ではなく“希望”の方だった。
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「さあ、次は俺の番か。アズィ、いつでもいいぜ」
誰もいない農道を歩きながら、
見えない見張りに向かって言った。
まあ、そんなの居ないと思うけど。
そう思いながらも、
俺はなぜか不安になって辺りを見回し、小さな勝利が呑み込まれないよう家路を急いだ。
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