8.黒狼の正体
村は十ほどの家屋が身を寄せ合うように建ち、それが防壁を兼ねているようだった。
かつて観光で訪れたヨーロッパの古民家を思わせる白漆喰の壁や、タールが塗られた板葺きの屋根。
窓は薄暗いが、灯りが燈されているのが見える。
車やトラクターは……ない。
「ちょっと待っててくれ、親父に話してくる」
どっちが弟か分からないが、体の大きさで“弟君”と決めた青年が、村で一番大きな家に駆けていった。
ちょっとした広場には共同の炊事場があり、女性や子供が大鍋で夕飯の支度をしている。
「あんた、腹減ってるだろ。どうせ今日も芋だろうけど、期待せず待っててくれ」
男は炊事場に行き、俺を指さしながら何かを言っている。
注目されて居心地が悪かったが、やがて一人の女性が笑顔で手を挙げた。
「任せとけってか」
兄が運んできたのは、茹でたジャガイモを崩して溶かしたチーズをかけたものだった。
立ちのぼる湯気と香りが幸福を保証している。
「さ、食おうぜ」
兄は地面にあぐらをかき、手を合わせて短いお祈りを呟いている。
俺も慌てて真似をした。
「うまい!」
「はは、芋でそんなに喜ぶ人は初めて見たよ」
兄はニコニコしながらカップを渡してきた。
こちらは水で薄められたワインだろうか。味気なく、決しておいしくはなかったが、アルコールの染みわたる感覚が心地良かった。
「おーい、食事が済んだら親父が来いってさ」
食事を手にした弟君が炊事場から声をかけ、家に戻っていった。
「親父さんはここの代表か?」
「ああ。爺さんが領主様に仕えて、うちはここを任されてんだ」
王都に領主。
ありがちな舞台に放り込まれたようだが……魔法はないのか?
「さっき言ってた黒狼ってのは、魔獣かなにかか?」
兄は吹き出しながら言った。
「魔獣ってあんた、おとぎ話じゃあるまいし。警吏さんは王都から出たのは初めてなんだな」
兄の話から、黒狼は家畜を狙うどこにでもいる夜行性の害獣らしい。
“おとぎ話”という言葉から、剣と魔法のファンタジーが繰り広げられているわけではなさそうだ。
うーん、残念。
「ところでなんでまた、こんな辺境に一人で来たんだ? 手配人でも出たのか?」
「……まあ、そんなとこだが」
あっという間にボロが出そうだが、大丈夫か俺?
「ふーん、まあ俺たちには言えないか。役に立つかは知らないけど、昨日三人組のクズ漁りなら見かけたよ」
もしかして、あいつらか?
「村に来たのか?」
「いいや、多分この先の宿場にでも泊まってんだろ。以前はそんな連中が沢山いたが、今はほとんど見ないな。もう大して掘るものもないだろうに、ご苦労なこった」
「……」
「さて、そろそろ親父のところへ行こうか。うまくやれば路銀が手に入るかもよ」
そう言うと、兄は立ち上がって案内するでもなく歩き出した。
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