76.杞憂
リッカは相変わらず串焼き肉を豪快に噛みちぎりながら、俺の話を聞いていた。
奴隷の件を失念していたことを重々しく伝えると、
「ああ、そんなのアズィに言えば片付くよ」
と事もなげに言った。
自分たちに無関係な事ならアズィを恐れる必要はないのだろうが、
ここまであっさり割り切れるリッカはやはり肝が座っている。
「借りを作るのはなあ……」
「多分そんなの貸しとも思わないよ?
正規の手続きで奴隷商に金を払って、表向きはアズィが雇い主になるだけだもの。
ただし費用はあなた持ち。
アズィは、あなたが兄妹のために色々やってるのは知ってるし、
あなたを嘲笑いはするだろうけど、どうでもいい事にはとことん無関心だから邪魔はしないよ、きっと」
「なるほど」
「それより、お金はあるの?」
アズィからもらった金があるから問題ないが、リッカには伏せた。
「旅の金が残ってるからなんとか。ここの支払いはお願いします」
「ふっ、そういう素直なところも好きよ。他に心配事は?」
「ロバは押さえたが、荷馬車がない」
「トーチに相談しなよ。牧場の古いのなら融通してくれるかもよ」
「分かった。アズィは次いつ来るんだろう」
「明後日は祭りだから来る。多分、私たちの結婚もそこで発表するでしょう」
「そうか……」
「私はね、言葉を入れ替えて気持ちを整理したの。
あの人の仕事のために結婚を利用されるんじゃなくて、
結婚のためにあの人の仕事を利用するって。
そういえば、あなたの口から告白はされてないわね」
「政略結婚みたいなものだし、アズィの魂胆がわからないからな」
「また理屈っぽいことを。悩んでるの?」
マリッジブルーを慰める友達みたいなノリで言うが、
呪いの状況を忘れたいのだろう。
「半分は照れ隠しだ」
「そう。じゃあ後でゆっくり裸にしてあげるわ。
それはそうと、明日は祭りの準備があるからあなたも働いてもらうわよ?」
「どんな祭りなんだ?」
「火を囲んで飲んで食べて、森と神様に感謝する。おしまい」
「分かりやすく教えてくれてありがとう」
「あら、本当にそうよ?
偉い人が説教したり長々とお祈りする村もあるみたいだけど、ここは単純。
あなたはあの……ニョッキを振る舞ったら?
宿も露店を出すから、きっと喜ぶよ」
「いいな。薪割りに夢中になりすぎて、あちこち痛み始めたし」
「もう少し飲んだら部屋に行きましょう。身体を拭くついでに揉んであげるわ」
「至れり尽くせりだな」
「何言ってんの、あなたも尽くすのよ」
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