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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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75/116

75.入札

その男は、俺の顔を見るなり露骨に嫌な顔をした。

だが、渋々と家に入れ、

「大事な話がある」と家族を外に出すと、

食堂らしき大きなテーブルが据えられた部屋へ案内された。


部屋は広いが、どこか寒々しい。

壁には狩りの戦利品らしき角が飾られ、

棚には帳簿と壊れかけのランプが雑に置かれている。

村役の家は裕福ではないが、

“権力の匂い”だけはしっかり漂っていた。


「あんた、村を出るってな。ようやく俺の胸のつかえが取れるぜ」


村役は、湯気の立たない薄い茶を俺に置きながら淡々と言った。

茶葉の質が悪いのか、香りがほとんどしない。


「ああ、その前に頼みができた」


「あの兄妹のことならできることはねえぞ? 俺にそんな力はない」


「ロバが売りに出されてると聴いた」


「ああ、欲しければ入札したらいい」


「確実に手に入れたいからここへ来た」


村役は鼻で笑い、椅子の背にもたれた。

その仕草が妙に板についている。


「あのロバはまだ若いから銀貨一枚ってとこだ。荷馬車は村のもんだから、そっちは自分でなんとかしな」


「俺が落札できるようにしろと言っている」


「おい、不正は罪になる」


「歩く不正がよく言うぜ。

 バカみたいな金額で競り落とすのも考えたが、不正な奴隷契約に引っかかって無効にされたら意味がねえ」


村役は一瞬だけ目を細めた。

図星を刺された時の顔だ。


「……金は出さねえからな」


「心配するな。そこまで腐っちゃいない。

 胸のつかえが無事とれそうで良かったな」


「……分かった、なんとかしてやる。

 だが、最後にしてくれよ?」


「俺もそう願いたいよ」


村役は立ち上がり、

壁に掛けられた古い帳簿を手に取ると、

落札後の手続きについて淡々と説明し始めた。

その声は、まるで税金の読み上げのように乾いている。


説明を終えると、

「もういいだろ」と言わんばかりに玄関へ向かい、

俺を外へ押し出すように送り出した。


外に出ると、

村役の家の前には干し草の山と、

子どもが遊んだのか転がった木の輪が落ちていた。

生活の匂いが濃く、

さっきまでの“権力の顔”との落差が妙に滑稽だった。


俺はまだ越える案のない次の壁に向かい歩き出した。


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