74.奴隷落ち
アズィの狙いが分からないまま四日が経った。
エルマはもう試すことがないと実験を終え、再び退屈な牢生活に戻った。
リッカは今年の猟を締めくくる村祭りの準備に忙殺され、毎日の寄り合いで夕食を共にすることもない。
つまり、俺は暇を持て余している。
「あーあ、乗馬の練習でもさせてくれないかなあ」
練兵場での体験は新鮮で刺激的だった。
どこへ行くでもないが、馬で野山を駆け回る行為そのものが冒険心を満たす。
ただそれだけで心が躍る。
「モズもそんな感じなのかな」
数少ないこの世界の知人を思い浮かべながら、
乾いた手の傷跡にエルマの試作品を塗り込む。
壁や天井と会話するだけの異世界ライフに、だんだん虚しさが募ってきた。
俺に与えられるミッションにはロマンなどなく、
唯一手に入れた“財宝”は支配という呪いに苛まれていて、
それを異能で解決する設定もない。
「ステータスオープン」
何も起きないのは実験済みだ。
仮に見れたところで、一般人のパラメーターに物騒な能力が一つ増えるだけだろう。
リッカに力のことを話すタイミングが分からない。
きっと受け入れるだろうが、俺の感情に神経質になり、心配事が増えるのは目に見えている。
せめて村を出てからの方がいい気がするが……壁はどう思う?
返事はない。
「ダメだ。薪割りでも手伝ってこよう」
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ストレスを薪にぶつけるため製材所へ向かっていると、
中心地の広場で村役たちを囲む村人の人だかりが見えた。
「審問官が到着した。希望者は今日の日没までに入札するように」
「ロバは先にうちに譲ってくれよ!」
「審問官の儲けを邪魔したら、お前が裁かれる時は火炙りだろうな」
「よせやい」
「いくら貯めてたか知らんが、どっちかは奴隷落ちだろうね」
ゴイの家の財産処分の話らしい。
審問官は村から事情聴取をして賠償額を決め、
財産の査定をして一度証書を作りに戻る。
賠償金には手数料が発生するため、
審問官が不当に価格を吊り上げるのを防ぐために証書は検査院が発行する。
人だかりに混じっていたジェイに声をかけると、
俺は博識だと言わんばかりの態度で説明してきた。
「賠償額は銀貨四枚ってとこだな。この手の揉め事の相場だ」
「以前も言ってたが、奴隷ってのは?」
「ああ、借金が埋まるまでの期間奴隷さ。
男なら街道の開拓地へ、エルマみたいな娘は……まあ分かるよな?」
俺は追放だけを想定していたため、身売りの対策を完全に見落としていた。
「誰かが賠償金を立て替えるのは構わないのか?」
「ダメだ。私的な奴隷契約につながるからご法度さ。
てかあんた何も知らねえんだな?」
不味い。
「はは、田舎育ちでな。そろそろ行くよ」
「ああ、またな」
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それから俺は予定通り製材所へ行き、汗だくになるまでマサカリを振るい、その足で村役の家を訪ねた。
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