66.罪悪感
リッカの家に戻り、温かい食事を前にしながら、
俺は今日までに考えた計画と、その障害を順に話していった。
「そのマリオさんがエルマの後ろ盾におあつらえ向きなのは分かった。
ヨーニール商会の火口茸は確かに有名だし」
やるじゃねえかマリオ。
こんな辺境の村でも名前が通ってるとは思わなかった。
「そこまでは完璧なんだがなあ」
「あの子たちはどのみち放浪生活になるだろうから、向かわせるのはともかく……
エリンヒャは、許可証なしでは入れないからね」
「そうなんだよ」
「でも、まだ諦めないのね」
リッカは、呆れたように、でもどこか嬉しそうに言った。
「エルマは村のために犠牲になって、村のために我慢して、村のために花壇を手入れしてきた。
それを棚に上げて過ちを誰も赦さないなら……せめて追放を門出に替えてやりたいのさ」
「自分が情けなくて嫌になるわ」
「どこで折り合いをつけるかは立場が決める。
だからリッカが村の秩序で折り合いをつけるのを責める気はない」
リッカは少しだけ視線を落とした。
暖炉の火が揺れて、彼女の横顔に影を作る。
「村人も複雑だと思う。ただ、街みたいに衛兵がいないから、掟の厳しさだけが互いを牽制する手段なの。
それを一度でも力や同情で曲げたら、村はきっと荒れ果てるわ」
「炭焼きの男は裁かれないのか?」
「娼婦を買うのは罪じゃないもの。
エルマはマールが家庭持ちと知ってて商売相手にしたから罪に問われている」
「村を出る時ぶん殴っていいかな」
「構わないよ。アズィはあなたを予定通り村を出すことしか興味ないから、
マールなんか一睨みで黙らせるでしょうね」
「おー怖」
軽口を叩きながらも、胸の奥は重かった。
エルマの未来も、ゴイの未来も、そして俺自身の未来も、
どれも雪の中に埋もれていくような感覚があった。
「ま、とにかく今の方針はそんなとこだ。
明日は体慣らしたいから村の外を歩いてみたいけど構わないか?」
「別にいいけど、森には入らないでね。
鳥と間違って狩人に射られるといけないから」
「分かったよ。じゃあ、鍋を返して宿に戻るよ」
リッカはまたねと微笑んだ。
その笑顔が、妙に胸に刺さった。
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家を出ると、夜の冷気が一気に肌を刺した。
雪は細かく降り続け、村の灯りをぼんやりと滲ませている。
俺はリッカに嘘をついたことを苦々しく思いながら、
暗い夜道に残る自分の足跡を頼りに店へ向かった。
――明日、俺は村の外を歩く。
だがそれは“体慣らし”なんかじゃない。
アズィの使いが現れたあの瞬間から、
俺の計画はもう別の段階に入っている。
雪を踏む音が、やけに大きく響いた。
まるで、村そのものが俺の嘘を咎めているかのように。
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