62.村のため
トーチは「子供を見てくる」と言って席を立った。
気に入らないが――勝手にしろ、ということだ。
ロガは「つまんねえ長話には付き合いたくない、今日はこれでお開きだ」と帰っていった。
「あいつらを薄情だと思うなよ?」
ジェイはヒゲの脂を拭いながら、俺を見て過去の出来事を話し始めた。
「ゴイの家はな、俺が来た頃から母ちゃんはいなかった。ベルマで娼婦をやってたと聞いたが、詳しくは知らねえ。親父はこの村で農夫をやってたが、一昨年死んだ」
「事故だと言ってたな」
「表向きはな。村役連中はそれで片付けたが、狩人の間では商会に殺られたって話になってる」
「なんでただの農夫が?」
「商会にボンクラ息子がいてな。村役がそいつへの貢物でエルマを売った。商会は村の塩を独占で卸してるから、時には汚えことも要求してくるのさ」
ジェイは、俺が怒り出さないのを確認して続けた。
「村役はエルマを塩の引き取りにモルの街――村から見えるあの街へ行かせて……あとは想像しな。エルマは親父に話し、親父は村役に抗議したが知らん顔。親父は一人で商会に向かったが、翌日、街道脇の水路に浮いた」
「なんて話だ」
「話には、まだ続きがある。ゴイは今はあれだが、当時は普通の少年――いや、男だった。親父同様に商会へ乗り込んだんだが、返り討ちに遭ってああなっちまった」
ジェイは、頭を指ですっと撫で、ゴイの傷の原因を静かに明かした。
俺のジョッキに蒸留酒を注ぎ、自分のジョッキにも注いで一気に飲み干した。
「よくある出来事だ。俺たちはこうやって人として生きてるつもりでも、上の連中には鹿や猪と変わらねえ、ただの獣だ。抵抗したのは立派だが、それだけだ」
俺は、ジェイに当たったところで意味はなく、仇を討つのも無駄だと分かっている。
ジェイが飲み干したのは、そういう無念なのだ。
「だから、深入りするな。それが村やリッカのためだ」
そう言って立ち上がると、別れの言葉もなくジェイは帰っていった。
「村のためか……」
俺は残り火を踏み躙って火を消し、トーチに礼を言って宿に帰った。
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