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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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62/116

62.村のため

トーチは「子供を見てくる」と言って席を立った。

気に入らないが――勝手にしろ、ということだ。

ロガは「つまんねえ長話には付き合いたくない、今日はこれでお開きだ」と帰っていった。


「あいつらを薄情だと思うなよ?」


ジェイはヒゲの脂を拭いながら、俺を見て過去の出来事を話し始めた。


「ゴイの家はな、俺が来た頃から母ちゃんはいなかった。ベルマで娼婦をやってたと聞いたが、詳しくは知らねえ。親父はこの村で農夫をやってたが、一昨年死んだ」


「事故だと言ってたな」


「表向きはな。村役連中はそれで片付けたが、狩人の間では商会に殺られたって話になってる」


「なんでただの農夫が?」


「商会にボンクラ息子がいてな。村役がそいつへの貢物でエルマを売った。商会は村の塩を独占で卸してるから、時には汚えことも要求してくるのさ」


ジェイは、俺が怒り出さないのを確認して続けた。


「村役はエルマを塩の引き取りにモルの街――村から見えるあの街へ行かせて……あとは想像しな。エルマは親父に話し、親父は村役に抗議したが知らん顔。親父は一人で商会に向かったが、翌日、街道脇の水路に浮いた」


「なんて話だ」


「話には、まだ続きがある。ゴイは今はあれだが、当時は普通の少年――いや、男だった。親父同様に商会へ乗り込んだんだが、返り討ちに遭ってああなっちまった」


ジェイは、頭を指ですっと撫で、ゴイの傷の原因を静かに明かした。


俺のジョッキに蒸留酒を注ぎ、自分のジョッキにも注いで一気に飲み干した。


「よくある出来事だ。俺たちはこうやって人として生きてるつもりでも、上の連中には鹿や猪と変わらねえ、ただの獣だ。抵抗したのは立派だが、それだけだ」


俺は、ジェイに当たったところで意味はなく、仇を討つのも無駄だと分かっている。

ジェイが飲み干したのは、そういう無念なのだ。


「だから、深入りするな。それが村やリッカのためだ」


そう言って立ち上がると、別れの言葉もなくジェイは帰っていった。


「村のためか……」


俺は残り火を踏み躙って火を消し、トーチに礼を言って宿に帰った。


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