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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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55/116

55.毒から薬

宿で寝ていると、リッカが夕食に誘いに来た。


「外に出る気分じゃない」


「さっき聞いたわ。昨日、宣教師と話をしたのよね? そして今は顔が険しい」


「寝起きだからかな」


「なら、今日はうちで食事にしましょう」


「……」


「心配しないで。店で買って来るから味は保証できるわ」


「分かった。行くよ」


リッカは俺を部屋に上げると、買い出しに出掛けた。

部屋には立派な暖炉が備わり、パチパチと薪が燃えている。

壁にはドライフラワーのブーケがいくつも下げられ、女性の部屋らしさを主張していた。

寝相が悪いのか、キングサイズのベッドに枕がひとつだけ不釣り合いに置かれている。

枕元のデッキには陶器製のオイルランタンが並び、リッカの身分の特別さを象徴していた。


座面に毛皮を何枚も重ねたベンチに腰掛け、暖炉を見つめていると、リッカが木箱を抱えて戻ってきた。


「薪を看ててくれたの?」


「いや、ただ見てただけだ」


「部屋をジロジロ見られるよりいいわ」


すまない、リッカ。


リッカはベッドにボードを置き、木箱から串焼き、茹でた芋、ワカサギのような小魚の焼き酢漬けを並べた。


「床は冷えるからここで食べよう」


全てのランタンに火を灯すと、ベッド周りはかなり明るくなった。

リッカとボードを挟み、俺はベッドに腰掛け、リッカはあぐらをかいている。


「さあ、飲むわよ」


リッカは高々と宣言し、ジョッキを押し付けてきた。


「ああ、露店で樹の実を買ったんだった。あの袋を取って」


袋にはピスタチオがぎっしり入っていた。


「ピスタチオじゃないか」


「知ってるの? 私は初めて。値は張ったけど、味見して気に入ったから買っちゃった」


へへ、と笑いながら軽快な音を立ててナッツを剥く姿は子供だが、ジョッキを呷る姿は完全におっさんのリッカは見ていて飽きない。

俺も負けじと飲み始め、串から肉を食いちぎるうちに、モヤモヤした気分が少し晴れてきた。


リッカは最近の仕事――競りの案内状作りが終わりの見えないことを愚痴り、

俺はベーコンを入れ忘れた話をして、ピスタチオの殻を剥く罰を受けた。


「少しは発散できた?」


今は二人、ベッドに並んで甘ったるいミードを飲んでいる。


「ああ。だが、袋小路が広がって藻掻いてるのは変わらない」


「多分、私には分からないだろうから聞く気はないけど、独り言は自由よ」


「そうだな。頭を整理するにはいいかもしれん」


そこから双子との会話を要約して一通りリッカに聞かせた。

リッカは椅子の見落としを無茶だと笑ったが、双子のリカバリープランには腹を立てていた。


「あいつら金輪際出入り禁止よ!」


「リッカに話したことはアズィには知られたくないから、秘密にしてくれよ?」


「なにそれ、ちょっといいじゃない」


「え、何が?」


「俺とお前だけの秘密だ。これは世界を守るためなんだ」


何のキャラか知らんが、キメ顔でニヤついている。

人類最古の中二病はこんな感じだったのかもしれない。


「ねえ、カゾヤマは故郷に帰りたいんだよね」


「どうなんだろうな。今はそれより、俺をここに放り込んだやつを見つけてぶん殴りたいのかもな」


「それがゴイだったらどう?」


「許す」


「あはは、随分気に入ってるね」


「冗談はさておき、わけも分からず怪物呼ばわりされてコソコソ暮らすのはごめんだ」


「茶化して悪かったわ」


「だから、アズィが俺を利用するのは構わない」


「利害の一致か。でも、私が言うのもなんだけど、アズィに気を許すのはダメだよ」


「なにかあるのか?」


「あの人は優秀な兄達に押さえつけられて育った。武芸はからきしな代わりに、神様は話術を与えた。それで王直属の地位を手に入れ、家の弱みを握って兄達を支配した」


「貴族の跡目争いなら普通じゃないのか」


「貴族社会で踏み付けられて貴族を憎んでるから、跡目には興味ないよ。それから家族だけでなく親族にも同じことを始めた。やがて、人の弱みを握り従わせることに取り憑かれた」


最近、俺も似たようなことをした気がするが、どうあれリッカには言えない。


「サイコパス……支配狂ってことか。リッカはどうなんだ?」


「私は子供の頃に両親を事故でなくしてるんだけど、それを伝えにうちに来たアズィが、私を引き取ってこの村に連れてきた。最初はただの良い養父だったけど、裏の顔を知ってからは、人を支配する手段の研究で私を過保護にしているか、別の自分を見つけるための鏡にしているんじゃないかと疑ってる」


皮肉にも、リッカに人の心理について英才教育を施したせいで、リッカはアズィを冷静に分析している。

恐ろしく歪んだ関係だが、毒から薬が生まれることもある。


「アズィとやり合ってからじゃ、考え過ぎとは言えないな」


「そうよ。だから十分に注意して。私は逃げられないけど、カゾヤマはうまくやってね」


うまくやれる自信はないが、身を守るには貴重な情報だ。

部屋の温度が下がり、それが錯覚ではなく薪のせいだと気付き、ベッドを降りた。


「……薪を足してくる」


「それが済んだら、こっちも温めて」


リッカはベッドをポンポンと叩いた。


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