54.賄賂
双子の非常識さに腹の虫が収まらず、一晩中逆襲の方法を考えていた俺は寝不足だったが、気晴らしに出掛けることにした。
宿を出ようとすると奥さんに呼び止められ、ギクリとしたが、昨日のニョッキにベーコンを入れ忘れ、そのまま厨房に置き去りになっていると伝えてくれただけだった。
「そのうち弁当に入れるか、そっちで使ってくれてもいいよ」
「ありがとう。じゃあ、半分だけいただくね」
宿を出て広場の露店を回ったが、すぐに飽きてトーチの家に向かった。
何となく、誰かと話がしたかった。
「パパ居ないよ」
馬小屋の前にいた末っ子が、俺を見るなりおっかなびっくり告げた。
ドタドタと姉と兄が現れて、
「ママの牧場のお仕事を手伝いに行った」
「牧場は、ヤギが沢山だよ」
と代わる代わる言い、三人でギャハハと笑いながら走っていった。
「空振りか」
次いでゴイの家に向かったが、こちらも留守だった。
中庭で洗濯していたおばちゃんが、多分鳥を撃ちに行ったと教えてくれた。
行き先がなくなった俺は、通ったことのない道を選びブラブラと路地を歩いていると、何かの建物の裏庭で、村役の一人が身なりの良い商人らしき男から耳打ちされているのが目に入り、反射的に身を引いて二人の死角に隠れた。
おっさんの耳打ちなんて碌でもないに決まっている。
案の定、金の入った袋を手渡され、村役は笑顔で商人を見送った。
俺は誰かに絡みたい気分だったので、すかさず裏庭に足を踏み入れた。
「やあ、こんにちは」
村役は飛び上がって驚いた。
「な、なんでこんな辺鄙なところへ?」
「狩りがないから散歩だ。取引か?」
「見てたのか。ただの支払いだよ」
「こんなところでか?」
俺が村役をじっと見つめると、居直ったのか、
「村にも色々事情があるんだよ。よそ者は首を突っ込まず黙ってろ」
「村の事情ならリッカに話してもいいよな?」
「……口止め料でも集ってんのか?」
「やけにあっさり認めたな。ああ、あの身なりだ。少しでも嗅ぎ回られると向こうも困るんだろ?」
「……ほらよ」
村役は銀貨1枚を俺の足元に放った。
俺は無視して、
「要らねえ、喋らねえよ」
「信用できるか。拾ったら失せろ」
「落ち着けよ。俺はずっとここに居るわけじゃねえし、村の事情をぶち壊すつもりもねえ。ただ、あんたに命を狙われるのも困る」
「どうしようってんだ?」
「さっきの御仁の身元を吐け。何の悪企みかまではいい。俺はリッカに手紙を預ける。村を出るまでに何かあったら読めと言ってな。何もなきゃ燃やして村を去る。呑めなきゃ今からリッカに話す」
「……分かった。あの人はな」
村役によると、相手は村に岩塩を入れる大商会の使者だという。
こじれると村に塩が入らなくなるから、絶対に余計なことはするなと俺に釘を刺した。
村役と別れ、事務局でそれとなくリッカに尋ねて村役が嘘を言っていないと確認を取り、この件は忘れることにして、昼寝のために宿に戻った。
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