53.深淵
俺は、喉に茶の温もりを感じながらゲーム説を打ち消した。
五感の再現度が異次元すぎて納得ができないのと、双子の言葉に怪しい点が一切なく、直接否定はしなかったものの肯定には遠く及ばない反応だったからだ。
敵意もなく、包み隠さず論理のみで答える双子はアズィに通ずるものがあるにせよ、少なくともアズィには感情や作為が見える。
一方、目の前の存在はまさに“深淵”と言っていい恐怖の塊だが、俺は覗くしか選択肢がない。
「とにかく、ネオンだ」
「そうですね。私の知識ではネオンの代わりはできません」
「じゃあ、さっさと繋げよ」
「?」
双子はまた顔を見合わせた。
良くないぞ、これ。
「なんか、連絡手段があるんだろ?」
取調べの刑事になった気で詰めると、エリが斜め上の返事をしてきた。
「ありません。カゾヤマさんはそういう力をお持ちなのですか?」
「どうやって連携してんだよ。まさか手紙か?」
「私たちは連携していません。それぞれが役割を共有しているだけです」
「なら、なんで椅子のこと知ってんだよ」
「私たちは再生者さんから得た知識を集約しているだけで、塔は外からも見たことがありません」
「な!……いや待て」
双子の知識のちぐはぐさの正体は、
“元の世界の知識は再生者から得たものだけ”
と考えれば筋が通る。
35mm対空機関砲の名称から何でもデジタル技術に当てはめていたが、双子がアナログで情報収集していると聞かされ、仮説の根底を巨大地震が襲っている。
そしてメンタルを崩した俺は、ついにクレーマーになった。
「お前らのミスだろ? なんとかしろよ。責任取れよ、責任者呼べよ」
「申し訳ございません。繰り返しになりますが、私たちは連携していません。カゾヤマさんはネオンとお話しするのが最優先事項でよろしいでしょうか?」
「話の流れから決まってんだろ」
「では早速ですが、愚弟が塔にお送りいたします」
「できるんなら最初から言えよ、ったく」
やさぐれて返事したが、一瞬で血の気が引いた。
ジラがいつの間にか背後に立ち、俺の首にそっと手を置いたのだ。
「よろしいでしょうか?」
「ま、待て待て!」
俺は転がるように手を逃れた。
「おい、どういうつもりだ?」
ジラはエリと寸分たがわぬ、不思議そうな表情で言った。
「ああ、こちらの村の皆さんにはうまくお話しておきますから大丈夫ですよ」
「そうじゃねえ! そうじゃねえだろ!」
「分かりかねます。再生者なら一瞬で塔に戻るのでしょう?」
ダメだ、話が通じねえ。
「エリ、とにかく却下だ」
「しかし、これ以外に方法はありませんよ? 塔は外からは絶対に入れないと聞き及んでおりますが、カゾヤマさんは何かご存知なのでしょうか?」
ご存知じゃない。
要求から導き出した双子の最適解は、まるでとんちのようなもので、実行すれば“一本取られた”では済まない。
「いや、お前らでなんとかしろって。俺の残機がゼロだったらどうすんの?」
「申し訳ございません。残機が何かは分かりかねます。ただ、カゾヤマさんの優先事項を叶える手段は、私の禁を犯してもこれ以外はございません」
「……クソッ。諦めるしかねえじゃねえか。止めだ止め。もう寝るわ、じゃあな」
「明日も村におりますから、なにかございましたら何なりと」
俺は返事代わりに乱暴にドアを閉め、部屋に戻った。
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