51.哲学問答
双子は、戸惑う俺を無視して店主に声をかけた。
「店主さん、お部屋をお借りしてもいいでしょうか?」
「はい、良かったら奥の間をどうぞ」
余計な気遣いだ。
「ではお言葉に甘えて」
俺は双子に逆らわず、奥の部屋に入った。
「俺に悩みはないから相談ごとはないぞ」
テーブルの対面に腰掛けながら、迷惑そうに言った。
「そうですか、それは何よりです」
双子はニコニコしながら俺を見ているが、明らかに営業スマイルだ。
「誘ったからにはそっちに何か話があるんだろ? 生憎、俺は神様はあんまり好きじゃねえから、入信ならお断りだ」
元の世界で時折訪ねてくる勧誘への断り文句をそのままぶつけた。
「大丈夫ですよ。私は旅の宣教師をしておりますジラと申します」
「同じく、姉のエリと申します」
「カゾヤマだ」
名乗るべきではない気がしたが、こいつらからはアズィと同じ匂いがする。下手な嘘はダメだ。
「カゾヤマさんからは、何かいい匂いがしますね」
「愚弟、失礼ですよ」
「……」
「失礼しました。イタリアンの香りなんて久しぶりなもので、つい」
「ン……だと?」
こいつらはイセカイジンなのか?
「重ねて愚弟が失礼しました。私がお話しするので、あなたは口を閉じていてください」
ジラは張り付いた笑顔を崩さず、「かしこまりました」とエリに返す。
「あんたら、もしかして――」
と言いかけた途端、エリに遮られた。
「違います」
「まだ何も言ってねえだろが」
エリは不思議そうな顔で、
「相手の意を汲むのは、何かおかしいでしょうか?」
と悪びれもなく即答した。
「意を汲むってのは、読心術とは違うだろ」
「そうですか。では、やり直しましょう」
俺は毒気を抜かれ、
「もういい。どうやってかは分からんが、俺の正体は知ってんだろ?」
「もちろんです。なかなかお会いできず、愚弟共々心配しておりました」
「で、あんたらは何なんだ?」
「宣教師です。カゾヤマさんにとっては“巡回サービス”になるでしょうか?」
疑問形で返されても困るが、お互い本当の自己紹介が終わったのだから遠慮はいらない。
「いきなり俺を連れてきて放り出した誰かの手先なのは分かった。お前ら、全部話してもらうからな」
「全てはお話できません。私たちは『再生者』に、こちらの暮らしをお手伝いするための存在です」
「なら塔で出迎えろよ」
「それは別の者の役割です。ネオンに至らない点がありましたら申し訳ございません」
「ネオン? 誰だよそれ」
双子は数秒、無言で顔を見合わせ、首を傾げた。
「塔のホールで会いませんでしたか? 会うというのも変ですね。ただの“喋る壁”ですから」
「何を言ってるんだ? 俺が転移した塔にはそんなもんなかった、いなかった」
「もしかして、ホールの椅子に座らなかったのですか?」
「座ってねえ」
正規のサービスが受けられなかったことに、だんだん腹が立ってきた。
エリは不思議な表情で、
「椅子があれば座るのが、人間ではないのですか?」
と、まるで俺がおかしいかのように聞いてくる。
「哲学問答かなにかか?」
「設計の不備をお詫びいたします。ネオンは椅子に座った人間しか認識できないのです」
よくそんなポンコツ設計でやってこれたな。
「まさか俺が初めてなのか?」
「はい、とても残念ながら」
俺がポンコツかよ。
「なら、アンタが今、説明しろ」
「できません。それは別の者の役割だと、先ほど申し上げましたよ?」
ホスピタリティ採点不能。
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