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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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50/116

50.ニョッキと宣教師

翌日の宿は賑やかだった。

茶を取りに階下へ行くと、隊商のリーダーらしき男と宿の主人が料金を巡って熾烈な戦いを繰り広げていた。

俺はその脇をそっと通り抜け、ストーブのヤカンから茶を淹れて部屋に戻った。


窓から露店を眺めていると、ふと鮮やかな赤が目に入った。


「唐辛子だ」


目をこらすと、他に黒胡椒やニンニクも並んでおり、村人が次々と買い求めていく。

元の世界の中世では胡椒は金と同価だったらしいが、こっちではそうでもないらしい。

露店を眺めているうちに色々な料理を想像し始めた俺は、引きこもる予定を変更して露店へ向かった。


広場を横切ると、路地には宣教師と話すための行列ができており、大半は村の女性だった。

これなら宣教師にしばらく会うことはないだろうと安心し、露店で物色を始め、唐辛子・黒胡椒・何かわからない乾燥ハーブを買った。

それから肉料理屋に寄ってベーコンを少しだけ分けてもらい、レシピを思い浮かべながら宿に戻った。


厨房を借りようとしたが昼時だったためすぐには無理で、皿洗いと引き換えに午後に使わせてもらう約束を取り付けた。


*


そして現在、俺は捏ねている。

茹でて潰した芋と小麦粉を捏ねて、ニョッキを作っているのだ。

途中、俺の様子を見に来たリッカを捕獲し、彼女は隣でニンニクの皮を剥き、唐辛子を刻んでいる。


俺は沸かした塩水にニョッキを投入し、フライパンに油を注いで刻まれたニンニクと唐辛子を投入。

茹で汁を加え、塩で味を整え、静かに混ぜながら乳化を見守った。

茹だったニョッキをザルですくってソースと和え、買ってきた黒胡椒とハーブを散らす。

ニョッキ・ペペロンチーノの完成だ。


「いい香り、早く食べよ?」


がっつくリッカに皿を渡し、俺は同じ作業を繰り返して宿屋の夫婦にも振る舞った。


「うめえじゃねえか、後で作り方教えてくれよな?」


「いいよ。芋と小麦粉の代金はそれでチャラにしてくれ」


リッカがおかわりを要求し、そこから店主と奥さんに即席の調理教室が始まり、クリームソースのニョッキも伝授した。


「カゾヤマにも意外な才能があるのね」


「意外ってなんだよ」


「とにかく美味しかった。また作ってね」


“今度は私が作ってあげる”と言わないのはリッカらしいが、俺は厳しい。

ホスピタリティマイナス採点。


*


片付けが終わる頃には夕方になっていて、隊商が宿屋にぞろぞろと入ってきた。

俺は部屋に戻り、寝転がって久しぶりの調理に満足していた。


やがて階下が静かになったので茶を取りに降りていくと、コスプレイヤーのような双子に出くわした。

例の宣教師か。


整った中性的な顔立ちに銀髪。

薄いグレーの法衣には黒地に銀糸の縁取りが施され、微かに灯りを反射する生地はベルベットだろう。

ゲームやアニメなら地味なファッションだが、リアル寄りのこの世界の村では異様と言ってよいほど浮いている。


俺は軽く頭を下げ、さっさと退散しようとしたが、双子は俺に近づき、


「せっかくですから、少しお話をしましょう」


と、同じ顔が同じ微笑みを浮かべながら声をかけてきた。


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