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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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49/116

49.賑やかな日々

翌日から囲いの作業が始まった。

森の入口には、朝から男たちの怒号と笑い声が響き、

荷車に積まれた丸太が次々と運び込まれていく。

木立ちをそのまま支柱代わりにし、

間に太い丸太を組み合わせていくと、

森の中に巨大な“壁”が生えていくようだった。


非力な俺は枝打ち担当で、

ゴイは立木を相手に斧を振るっている。

あの丸っこい少年が、斧を振り下ろすたびに

木屑が雪のように舞い散るのを見ると、

この世界の“生活力”の差を痛感した。


ロガが「祭り」と表現したのも納得だ。

総勢100人近い男たちが動き回る現場の片隅では、

焚き火がいくつも焚かれ、

番をする女性たちが茶や酒を振る舞い、

肉料理屋が出張して炊き出しまでしている。

まるで村全体が一つの巨大な工事現場であり、

同時に祭り会場でもあった。


十日近くかけて、

歪ではあるが野球場ほどの面積の囲いが完成した。

上から見れば、きっと巨大な獣の檻のように見えるだろう。


完成祝いの酒宴の中、ロガが得意げに声をかけてきた。


「な、祭りだったろ?」


「そんなにいい金になるのか?」


「そりゃ、競りだからな。普段の十倍は稼ぐはずだ」


この“囲いビジネス”だけは村の収益として扱われ、

禁漁期で休む村人たちの越冬資金として公平に分配される。

春になれば囲いは解体され、

木材は木炭に加工されて街に出荷される。


非効率に見えるが、

獣神信仰では“森に定住したり造作物を建てたままにする”のはご法度だ。

破れば獣はこの地を去る――と教義にある。


棲息地を侵せば動物が境界を下げるのは、

元の世界でも感覚的に理解できる。

それを“教義”にして恐れを抱かせ、

人間側の暴走を抑止しているのだろう。


*


囲い完成後の三日間、狩人たちは休暇となった。

俺は寒空の下で洗濯を敢行した。

狩猟で使っている長手袋のおかげで水仕事はそこまで辛くなかったが、

使う筋肉が違うのか、翌朝には全身が筋肉痛で悲鳴を上げた。


窓から広場を眺めると、

今日はいつもより露店や買い物客が多く、

村にしては珍しく賑わっていた。


「翼神教の宣教師が来てるのよ」


暇つぶしに訪ねたリッカは、

書類と格闘しながら村の賑わいの理由を教えてくれた。


宣教師は訪れた先で住民相手に懺悔や告白を聞き、

寄附を集めながら国中を回る。

共に旅をする隊商が物産展を開くため、

数日間は村がちょっとした市のようになるらしい。


「ま、私は普段から言いたいことは言うことにしてるから用はないわ」


「できれば顔を合わせたくないな」


「そうか、あなたは身の置き場がないか」


力さえ使わなければ正体がバレることはないだろうが、

うっかり口を滑らせないとは限らない。


宣教師は“異端”に敏感だ。

俺のような存在は、

彼らの教義の中では“説明のつかないもの”に分類される。


「部屋に籠もるとするか……」


「連中が発つまで、うちに泊まってもいいよ。部屋なら空いてるし」


「妙な噂が立つから止めとく」


「あら、残念」


リッカのからかいを受けながら、

俺はひとまず宿に戻った。


広場に並ぶ露店の周りに人だかりができ、

商人の呼び声が入り混じっていた。

村の空気が、いつもより少しだけざわついている。


俺はその喧騒を背に、

そそくさと宿の階段を上がった。


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