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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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46/116

46.異世界社会人デビュー

ゴイは夜が明けきらないうちから宿の前に立っていた。

新入社員が先輩を待たせるとは、初日からやらかしてしまった。


「か、カゾヤマさん……きょ、今日からよろしくお、お願いします」


「ああ、よろしく。頼りにしてるよ、師匠」


「し、ししょ……? あ、はい! で、では師匠を頑張ります!」


なんだ癒し系か。

ゴイはお世辞にもイケメンとは言い難い丸顔だが、愛嬌があり、無垢な雰囲気が初対面の相手の警戒心を溶かす“ほのぼの少年”だ。


しかし、そのゆるキャラ現地人は仕事モードに入ると豹変した。

木立ちの間を泳ぐように奥へ奥へと進み、次々と罠を点検していく。

最初は「頼もしいな」と偉そうに後を追っていた俺だが、昼前には完全に根を上げた。


「ち、ちょっと張り切りすぎました。す、少し早いですが、お、お昼にしましょうね」


陽射しが差し込む開けた草地に案内され、俺は背嚢から弁当と水筒を取り出し、柔らかい枯れ草の上に腰を下ろした。


宿に持たせてもらった弁当――鶏肉と豆をトマトソースで煮詰めたものを蒸しパンで包んだもの――を頬張る。

ゴイは茹でた小さなクズ芋を皮ごと口に放り込んでいく。


「ゴイ師匠、どうぞ」


蒸しパンが三つあったので一つ差し出す。


「うごご、だ、ダメですよ」


「まあまあ。俺の故郷じゃ弁当を交換するのが友情の印だから。ゴイは芋くれよ」


迷いながらも、“友情”の言葉が効いたのか、おずおずとクズ芋を渡してきた。


俺が芋を口に放り込むと、ゴイは恥ずかしそうに言った。


「い、妹とふ、二人暮らしで……せ、節約が大事、です……」


「妹がいるのか」


節約の話題は早々に切り上げたかったので、強引に話題を変えた。


「み、見たことある、はず……かな?」


聞けば、水やりの少女はゴイの妹で、リッカの案で山野草を採ってきては育てているらしい。


ゴイはひとしきり喋り、パンを頬張り、


「ゾ、カゾヤマさんに助けてもらわなかったら、きっとこのパンもた、食べられなかったです。あ、ありがとうございます!」


と元気に礼を言った。

その様子から、両親が厳しく育てたのだろうかと想像したが――


「……ご両親はいつ?」


「母は、いましたが……いません。父は最近事故で、し、死にました」


やべー、何やってんだ俺。


「悪いこと聞いた、ごめん」


「し、仕方ないっす。この世界ではよくある、は、話……です」


いい気になって踏み込みすぎた。反省。


沈黙が重くのしかかったが、ゴイは柔らかい表情で空を眺め、やがて言った。


「よし、し、仕事に戻りましょう」


ゴイの方がよっぽど大人じゃん。

俺のホスピタリティ、マイナス100ポイント。


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