46.異世界社会人デビュー
ゴイは夜が明けきらないうちから宿の前に立っていた。
新入社員が先輩を待たせるとは、初日からやらかしてしまった。
「か、カゾヤマさん……きょ、今日からよろしくお、お願いします」
「ああ、よろしく。頼りにしてるよ、師匠」
「し、ししょ……? あ、はい! で、では師匠を頑張ります!」
なんだ癒し系か。
ゴイはお世辞にもイケメンとは言い難い丸顔だが、愛嬌があり、無垢な雰囲気が初対面の相手の警戒心を溶かす“ほのぼの少年”だ。
しかし、そのゆるキャラ現地人は仕事モードに入ると豹変した。
木立ちの間を泳ぐように奥へ奥へと進み、次々と罠を点検していく。
最初は「頼もしいな」と偉そうに後を追っていた俺だが、昼前には完全に根を上げた。
「ち、ちょっと張り切りすぎました。す、少し早いですが、お、お昼にしましょうね」
陽射しが差し込む開けた草地に案内され、俺は背嚢から弁当と水筒を取り出し、柔らかい枯れ草の上に腰を下ろした。
宿に持たせてもらった弁当――鶏肉と豆をトマトソースで煮詰めたものを蒸しパンで包んだもの――を頬張る。
ゴイは茹でた小さなクズ芋を皮ごと口に放り込んでいく。
「ゴイ師匠、どうぞ」
蒸しパンが三つあったので一つ差し出す。
「うごご、だ、ダメですよ」
「まあまあ。俺の故郷じゃ弁当を交換するのが友情の印だから。ゴイは芋くれよ」
迷いながらも、“友情”の言葉が効いたのか、おずおずとクズ芋を渡してきた。
俺が芋を口に放り込むと、ゴイは恥ずかしそうに言った。
「い、妹とふ、二人暮らしで……せ、節約が大事、です……」
「妹がいるのか」
節約の話題は早々に切り上げたかったので、強引に話題を変えた。
「み、見たことある、はず……かな?」
聞けば、水やりの少女はゴイの妹で、リッカの案で山野草を採ってきては育てているらしい。
ゴイはひとしきり喋り、パンを頬張り、
「ゾ、カゾヤマさんに助けてもらわなかったら、きっとこのパンもた、食べられなかったです。あ、ありがとうございます!」
と元気に礼を言った。
その様子から、両親が厳しく育てたのだろうかと想像したが――
「……ご両親はいつ?」
「母は、いましたが……いません。父は最近事故で、し、死にました」
やべー、何やってんだ俺。
「悪いこと聞いた、ごめん」
「し、仕方ないっす。この世界ではよくある、は、話……です」
いい気になって踏み込みすぎた。反省。
沈黙が重くのしかかったが、ゴイは柔らかい表情で空を眺め、やがて言った。
「よし、し、仕事に戻りましょう」
ゴイの方がよっぽど大人じゃん。
俺のホスピタリティ、マイナス100ポイント。
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