44.束の間の内定
緊迫の展開の翌朝、宿を出てリッカを訪ねたが、猟に出ていて留守だった。
アズィも昨夜のうちに去ったようで、俺は暇を持て余した。
放免になったとはいえ、村を勝手にうろついて不審者扱いされるのも嫌だし、リッカと擦り合わせなしに誰かと会話するのはリスクがあるため、宿に戻りリッカの帰りを待った。
バームでも作ろうかと考えたが、村に足跡を残さない方が良さそうだと思い直し、そこからはスパイ映画の記憶を呼び覚まして、これから始まる未来を妄想して時間を潰し、やがて飽きて昼寝した。
目覚めると陽が傾き始めていたが、呼びに来ていないからリッカはまだ戻らないのだろう。
下に降りて茶を淹れてもらい、木窓から広場を眺めながらニートの優雅なティータイムが始まる。
肉料理屋は相変わらず繁盛しており、行商や兵士が出入りしている。
何度も水汲み場を往復しながら花壇の水やりをしている少女は、時折兵士に冷やかされたり、行商人の道案内でもしているのか姿を消したりしていたが、日が暮れる直前まで水やりをしてサボらなかった。
偉いぞ。
結局リッカが宿を訪ねてきたのは、すっかり暗くなってからだった。
ゴイの抜けた穴を埋めるために駆けずり回っていたらしい。
「ごめんね、アズィにあなたの面倒を頼まれてるけど、今日は無理だった」
「忘れてたならムカつくが、やるべきことをやってる相手に文句は言えないよ」
「明日は調整できたから一日大丈夫よ。お腹空いたから夕飯を食べながら話そう」
俺たちは肉料理の店に向かった。
前回見かけた腸詰めを頬張りながら、リッカが話し始める。
「それで、これからのことなんだけど、働く気はある?」
「ああ、できることがあれば手伝うよ」
「狩りの経験は?」
「ない」
「元は何やってたの?」
出版社で漫画の編集やってましたと言っても通じなさそうだから、
“書物を作る仕事”と知的な表情で答えたが、
「ここじゃ役に立たないな」
と、尊敬どころか容赦ない言葉が返ってきた。
「そうだ、ゴイがそろそろ仕事に戻れるから、一緒に罠の見回りなんてどう?
嫌なら焚き木拾いでもいいけど、一人よりいいでしょ?」
「ああ、ゴイさえ良きゃ、やってみるよ」
「明日は私が村の決まり事や、こっちの社会常識を教えるわ。
住まいは今の宿になるけど、アズィから銀貨をせしめたから支払いは心配しないで」
「そりゃ心強い」
「じゃあ、明日の予定は決まりね。あなたを常識人にして、必要なものを買い、明後日に備える」
「分かった」
「ゴイはああ見えて罠の腕は確かよ。しくじったのは運が悪かっただけ」
「足手まといにならないよう頑張るよ」
「よし、なら明朝私の家に集合。寝てたら叩き起こして」
宿の前でリッカを見送って、俺は部屋に戻り、
ベッドの上で束の間とは言え仕事を手に入れたことに喜びながら眠った。
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