43.奇妙な同盟
俺とアズィとリッカは、昼に行ったのとは別の小さな店でテーブルを囲んでいる。
アズィ曰く「周囲に気を遣わせるのが嫌」なのだそうだ。
できた上司だな、と素直に思った。
リッカは、アズィからどこまで話を聞いたのかは分からない。
だが、俺が普通に食事の場に座っているのを見て、
“最悪の結果にはならなかった”と察したらしく、すっかり調子を取り戻していた。
「今日は肉はもういらない」
「そうか、俺は肉にするが、お前らは魚でも食えよ」
リッカは俺をちらりと見たが、特に確認はせず、
注文のために厨房へ行き、ワインを手に戻ってきた。
「で、仲良くなれたの?」
ワインを配りながら、リッカはズバッと聞いてきた。
アズィは俺を見てニヤッと笑い、
「リッカは肝が座ってるだろ? いちいち腹を探るな、が俺の教育方針だからな」
「おかげで社交界には出られなくなったわ」
「その方がよっぽど幸せだぜ」
軽口を叩き合う二人を見ていると、
何がきっかけで親子になったのかは知らないが、
アズィが貴族の暮らしを良く思っていないのはよく分かる。
「というわけで、お前も探るような物言いは禁止な?
喋り方も、人前以外は普段通りにしろ。
言葉を選んで本音が隠れるのは俺の得にならねえ」
「分かったよ」
俺は今度はあっさりと受け入れた。
この男は、徹底的な合理主義者として振る舞うことで、
相手を従わせる術をよく心得ている。
「よし、じゃあ友好に乾杯だ」
リッカの問いに答えるように、アズィは杯を掲げた。
俺も、リッカも、それに続く。
ワインの香りがふわりと立ち上がり、
三人の杯が軽く触れ合った瞬間、
この奇妙な同盟がようやく“形”になった気がした。
運ばれてきたのは、塩漬けにされたマスの切り身のムニエルだった。
鮮やかなピンクに深緑のハーブの飾りつけが食欲をそそる。
付け合わせは小綺麗にカットされた芋とクルミで、魚の塩気を程よく緩和するよう計算されている。
切り身は小骨が丁寧に取り除かれており、料理人は貴族に仕えていたか、相応の店で修行したのが窺える。
村人には敷居が高そうだが、新鮮な肉を求めてお忍びで村を訪れる富裕層はいそうだから、それなりにやっていけるのだろう。
2人は食後に蒸溜酒を飲み始めたが、俺はいい思い出がないため辞退し、談笑している間にリッカは酔いつぶれて寝てしまった。
「さて、俺の提案の返事はどうだ?」
「協力関係には合意する」
「そりゃ良かった。新しい身分証は少し時間がかかるから、しばらくここで暮らして色々学んでおけ」
「新しい身分?」
「お前は一度手配書が回ってるから、念のため身ぎれいにしておく。村の連中は誤魔化せねえから、ここを出たら別人になれ」
ヤマノのパトロンあたりに俺を囲ったと思われるリスクは潰しておきたいってことか。
「分かった」
「なんなら本物の警吏にしてやろうか」
ヘラヘラと笑いながら調査能力を誇示するアズィを、俺は、改めて恐ろしいと思った。
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