40.出所祝い
広場まで戻ると、行商があちこちに露店を広げ、村人の他に非番の兵士らしき姿が物色していた。
リッカは四角い広場の一面を占める大きな木造の店へ歩いていく。
店から風に乗って漂ってくる炭焼きの肉の香りに腹が鳴り、リッカに笑われながら店に到着した。
中は結構な広さで、昼前にも関わらず兵士や狩人が各々のテーブルで酒盛りをしている。
「2人、両方、多めで」
カウンター越しに大声で声をかけたリッカは、そのまま厨房へ入っていき、取り残された俺を店員の少女が苦笑いしながらテーブル席に座らせてくれた。
リッカは木製のピッチャーとジョッキを手に、エプロン姿で戻ってきた。
「手伝いでもするのか?」
「ああ、これ? 服を汚したくないから」
これが彼女の捕食モードらしい。
泡立つ錆色の液体で満たされたジョッキのひとつを俺に寄越し、「解放に乾杯」と言ってゴクゴクと飲み始めた。
俺も雰囲気にあてられ、一気に飲み干して場を堪能することにした。
「いいね、そうこなくっちゃ」
リッカは楽しそうに言って、ピッチャーを俺に差し出した。
店の中央には石組みの大きな炉が据えられ、串に刺した肉が囲うように立てられ、店員が慣れた手付きで火を入れている。
リッカは大皿を持ち、店員に声をかけて10本ほど持ってきた。
「鹿よ」
香ばしく焼かれた表面から染み出すギラギラとした脂と肉汁に喉を鳴らし、かぶりついた。
ニンニクに強めの塩こしょうというシンプルな味付けだが、野生から文明に戻ろうとする俺には十分だった。
肉はジビエらしい仄かな癖があるが柔らかく、俺たちは噛み締めてはエールを呷り、あっという間に皿を空にした。
「まだまだ、これからだよ」
リッカは酔いが回ってきたのか緩んだ紅い顔で宣言し、手を挙げると店員が料理を運んできた。
よく煮込まれたスペアリブに、グリルしたタマネギや根菜が添えられている皿からは、少し甘い香りが漂う。
味付けはまったりとしたクリームソースで、骨を振りながらリッカが豚だと言った。
俺の感覚だと猪だが、こちらの世界では豚のようだ。
別の狩人たちが入ってきて、リッカに手を挙げて挨拶していった。
「ここは、人気の店なんだな」
「人気? ああ、あなたがよそから来たのを忘れてたわ。この村じゃ肉を食べられるのはここだけなの。家で勝手に食べたら、あなたのように牢屋行き」
狩人の公私混同を避けるためのローカルルールだそうだが、代わりにウサギや鳥は好きにしていいらしい。
「あ、でもキジだけはダメ。あれは貴族に納めるものだから」
爺さんは貴族だったのか、と今や懐かしい顔を思い浮かべながら、俺は骨をしゃぶって聞いていた。
目の前を豪快な腸詰めが通り過ぎていったが、さすがにもう食べられない。
リッカはすっかりご機嫌になっているが、まさかアズィなる人物の来訪を忘れてないだろうな。
俺たちが出る頃には店は満席となっており、広場で串焼きにかぶりつく人もボチボチと見られた。
食糧事情が厳しいであろうこの世界では、ここはかなりマシな部類なんだろう。
それから、リッカは当たり前のように俺の手を引きながら宿に行き、部屋を取ってくれ、
「夕刻にうちへ来て」と言い残して帰っていった。
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