39.ゴイ
リッカに連れられ広場を横切ると、鹿や猪を載せた台車が狩人たちに囲まれながら次々と運ばれていくのが見えた。
広場の花壇には、冬の始まりにも関わらず薄紫の花弁を持つ小さな花がきれいに植えられており、村の粗野な風景を和らげている。
血と脂の臭いが立ち込める路地の建物の窓からは、せっせと獣を解体したり、ハンガーに吊るした肉を燻製釜に据える村人たちの姿が見えた。
「よくも毎日獲物が捕れるもんだな」
「鹿と豚はいくらでもいるからね。でも、もうじき雪が降るから、今の半分以下になるよ」
村外れに出ると畑が広がり、蕪や人参を収穫する女性たちが談笑する声が聴こえてきた。
リッカが手を振り、女性たちが軽くお辞儀している関係から、彼女はやはり上の身分を持つのだろう。
狩人たちのぞんざいな態度は良いのかと考えたが、彼らなりの付き合い方でうまく回っているのだろうから、俺がとやかく考えることでもない。
「ここよ。ゴイ、居る?」
リッカが凹に造られた長屋の一室のドアを叩くと、少年が暗い部屋から顔を出した。
「リ、リッカさん、ど、どうも……」
笑顔から緊張しているのではなく、吃音症だと分かる。頭の怪我が原因だろうか。
リッカは気にせず俺を紹介した。
「は、はじ、初めまして、ゴイです」
「カゾヤマだ。元気になって嬉しいよ」
俺が危ない橋を渡ったのだから、元気でいてもらわないと困る。
「あの、あ、あ、」
「うんうん、分かってる。助けたのは俺の気まぐれだから気にしなくていい」
丸まっちい困り顔が、必死に笑顔を作ろうとして失敗しているのを見て、俺はキュンとした。
何この子可愛い。
「まだしばらくは仕事に出なくていいから、ゆっくり休んで」
「は、はい! や、休んで、ま、また頑張ります!」
「それと、これは狩人たちから」
彼女は見舞金らしき小袋をゴイに渡した。
ゴイはうつむき、泣き始めた。
なんとなく見ない方が良い気がして、俺はその場を離れ中庭を散歩することにした。
中庭には納屋と馬小屋があり、一頭のロバがモサモサと干し草を食べている。
ロバは素人目にもよく手入れされているのが分かり、ただの家畜ではなくペットのように大事にされているのが分かった。
ちょっと興味が湧いて撫でようとしたが、フイと避けられ、俺には全く関心を見せなかった。
しばらく挑戦したもののうまくいかず、諦めてリッカのところに戻ると、既にゴイとの会話を終えていた。
「待たせちゃったね」
「いいさ。次はどこへ?」
「決まってるじゃない、肉を食べるわよ」
俺に食べさせたいのか、自分が食べたいのか分からない言い方だが、願ってもない申し出に胸が躍った。
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