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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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33.賽の河原

35. 賽の河原(増量・加筆修正版)


俺はようやく湖に辿り着いた。

だが、そこで待っていたのは、想像以上に容赦のない現実だった。


目の前に広がる湖は、地図で見た“丸い湖”とは似ても似つかない。

リアス海岸のように複雑に入り組み、

まるで巨大な生き物が大地を噛みちぎった跡のように、

無数の入り江が深くえぐれている。


「そりゃ、あんな適当な地図を期待する方が間違ってたわな」


自嘲気味に呟く。

だが、笑えるほど余裕はない。


俺の行く手を阻んでいるのは、湖へ流れ込む大きな川だった。

幅は百メートル近く。

ターコイズブルーの水面は美しいが、底はまったく見えない。

その深さを想像しただけで、背筋が冷える。


川沿いは草地で歩きやすそうだが、

渡れるほど川幅が狭まる地点まで遡るべきか、

それとも危険を承知で村に引き返すべきか――

どちらも地獄の選択肢だ。


「……賽の河原かよ」


積んでは壊され、また積んでは壊される。

そんな徒労のイメージが頭に浮かぶ。


だが、目を凝らして周囲を見回していると、

川の土手が妙に平らになっている場所があった。

近づいてみると、轍が刻まれている。


街道だ。


ベルマに続いているかどうかは分からない。

だが、川沿いの街道を歩けば、

いずれ人里に行き着くだろうし、

運が良ければ馬車や旅人に会えるかもしれない。


胸の奥で、わずかな希望が灯った。


---


風が吹き抜け、湖面に細かな波紋が走る。

その音が、やけに遠く感じた。


「こんどは簡単に壊されてたまるかよ」


空を睨みつけ、そう誓った。

誰に聞かせるでもない、ただの独り言。

だが、その言葉が自分の足を前に押し出す。


俺は街道へ向けて歩き始めた。


背後には、誰もいない。

前にも、誰もいない。


だが――

それでも進むしかない。


---

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