30.またしても
いきなり後ろからガツンと衝撃を受け、俺は前のめりに倒れ込んだ。
「鞄を奪え」
タルガンが命じると、息子――いや、もはや息子かどうかも怪しい男が、
「分かってるよ、指図すんな」
と平然と返した。
タルガンは俺の背にのしかかり、
冷えた金属の感触が首筋に押し当てられる。
「命は取らねえが、いただくものはいただくぜ」
その声は、昼間の気さくさとは別人のようだった。
「タルガン! そいつ王都の警吏だ!」
「何?」
……何?
ああ、短剣のことか。
「おいおい、お互い不味いことになったな」
タルガンは俺を押さえつけたまま呻く。
「どうすんだよ」
息子らしき男が、不安を隠しきれず声を上げた。
「ひとまず縛り上げるぞ」
息子役は鞄から麻縄を取り出し、俺の腕を後ろ手に縛り上げた。
「立て。もう少しお散歩だ」
「……」
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窪地を見下ろす草地に連れてこられた俺に、タルガンは冷たく宣言した。
「さて、悪いが予定変更だ」
「追っ手がかかるぞ」
「本物のタルガンさんなら、もう土の中さ」
「なんてやつだ」
この世界では、裁判所や牢獄はあっても、
犯罪捜査や逮捕は“自己責任”という中世の掟が生きている。
衛兵が街の治安を守るのは、
徴税のための“福利厚生”に過ぎない。
警吏であってもホームを離れれば威光は通用しない――
が、タルガンにとって、王都の警吏という肩書きが念のための“口封じ”の理由になったのだろう。
モズが説いた「土地に縛られて生きる」という価値観が、
こうした過酷な背景から生まれたものだと改めて思い知らされた。
「なんで俺を狙った?」
「この辺りで舟が初めてなんてあり得ねえからな。
他所から来た一人旅のお人好しなんざ、涎が出るに決まってらあ」
「……」
「おい、早く片付けようぜ」
息子が苛立ちを隠さず言う。
「そうだな。あばよ」
偽タルガンは息子に照明係をさせ、ナイフを振り上げ襲いかかってきた。
分厚いポンチョが斬撃を防いだが、転ばされ、太腿を刺された。
焼けるような痛みに、思わず声が漏れる。
「さあ、もう逃げられねえぞ」
肩で息をしながら、俺は死刑宣告をする偽タルガンを睨みつけた。
そして――
轟音と共に、偽タルガンは消し飛んだ。
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