29.タルガン
舟が古びた木製の桟橋に接岸すると、すでに村人たちが待ち構えていた。
一枚でも多くの銅貨を稼ごうと、乗客にまとわりつくように声をかけてくる。
先に着いた舟の人数からして、本当に野宿になりかねない。
焦り始めたところで、五歳くらいの女の子が俺の裾を引っ張った。
「白銅貨一枚、スープとパン」
「異世界民泊高えな……」
子供は不思議そうな顔をしたが、“高い”という言葉だけは理解したらしい。
「安くすると父ちゃんに叩かれる……」
その声色は、嘘をついているようには聞こえなかった。
悪質な客引きを子供にさせる親にイラッとしたが、
ここで説教したところで何も変わらない。
「ごめんな」と頭を撫でて退散した。
結局、警戒してモタモタしているうちに寝床争奪戦に出遅れ、
銅貨五十枚を払ってヤギと寝ることになった。
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翌朝、迎えに来た舟に乗り込み、タルガンに話すと爆笑された。
そしてまた酒を勧められた。
同じような一日を過ごし、今日こそはと構えていると、タルガンが言った。
「次は、うちの村だ。みんな生きるに必死なだけだから堪忍してやっておくれ」
「ああ、誰だってそうだ」
「あんた、いい人だから、うちの作業小屋なら泊めてもいいよ。
女房の手前タダってわけにはいかないが、ストーブもある」
「銅貨二十枚」
「厳しいなあ……まあいいや。な?」
タルガンは息子に同調を促したが、息子は返事をしない。
薬を買いに行ったという話を思い出し、
――もしかして息子の病気のためなのか、と胸の奥がざわついた。
交渉成立で安心したところで、また昼寝を始める。
昨日同様、目が覚めた頃には船着場が見えてきた。
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俺は昨日のリベンジの必要もなく、意気揚々とタルガンの後をついていく。
「うちまでちょっと歩くが、構わないよな?」
「ああ」
タルガンは道端の松明をひとつ掴み、日没した薄暗い道を照らした。
俺たちは三人で、村外れの林の小径を黙々と歩いていく。
息子も松明を手にし、俺の足元を後ろから照らしてくれる。
やがて、人の手が入った開けた場所に出た。
「タルガンは木樵でもやってんのか?」
息が上がりかけた声でなんとなく聞くと、
タルガンは振り返り――
「いや、違う」
と、無表情に告げた。
その声音には、
舟での陽気な雰囲気は欠片もなかった。
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