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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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28.乗合船

見つけた宿は混み合っていた。

客たちの雑談に耳を傾けていると、リリハランを出航する乗り合い舟は朝しか出ないことが分かった。

荷物を部屋に置くなり、慌てて乗船札を買いに走る。


帆船の直行便は午前と午後にベルマ行きがあったが、船賃が銀貨二枚。

――即却下だ。

ベルマに落ち着けたら、また来る日もあるだろう。観光は諦めた。


帰り道で見つけた揚げパンを買い、部屋で先日買った豆の残りを挟んで食べる。

そして寒さ凌ぎに布団に包まっているうちに、いつの間にか眠っていた。


---


朝になると、橋にはすでに行列ができていた。

茶で身体を温め、身支度を済ませて出掛ける。

小一時間かけて関所を過ぎると、『国内』の看板が立つ船着場が見えてきた。


通勤ラッシュの懐かしさがふと甦る。

――いや、そんなに楽しいものじゃなかったな、とすぐ思い直し、舟の順番を待った。


---


舟は、屋形船を洋風にしたような造りだった。

反り返った舳先には、モズと同じ赤白の旗が揺れている。

なるほど、リリハランの旗なのか。


屋根付きの座席は掘りごたつのようになっていて、等間隔に置かれた火鉢ではカイロ代わりの石が焼かれている。

トライポッドにはヤカンが吊られ、湯気がほのかに立ち上っていた。


――ホスピタリティ満点だ。


乗客は俺と似たような身なりの旅人ばかりで、皆無口だった。

席が埋まると、船頭が手旗で合図を出し、舟は静かに進み始めた。


---


湖は霧に覆われ、風景を楽しむどころではない。

だが、どのみち風除けの板壁で外は見えないから、損をしたとは感じなかった。


時折進路に目をやると、舟は陸沿いをキープしている。

遭難の心配はなさそうだ。

ただ――退屈極まりない旅なのは確かだった。


---


昼近く、最初の接岸。

「用を足すならここで済ませてくれ」と船頭が指示し、半数が降りていった。

俺は行かなかった。


「舟は初めてかな?」


不意に隣の男が話しかけてきた。

さらに隣には、息子らしき青年が不機嫌そうに茶を啜っている。


「ああ、なんで分かるんだ?」

「そりゃ、あんた、舳先ばっかり気にしとるからだよ」


――そういうことか。


「ああ、失礼。ワシはタルガン、こっちは息子だ。リリハランへ薬を買いに行った帰りだ」

「俺はカゾヤマだ」


「退屈な船旅だが、楽しみもあるよ」


タルガンはそう言うと、懐から瓶を取り出し、ニコッと笑って膝で挟んだカップに琥珀色の液体を注いだ。


匂いからしてウイスキーのようだ。

ヤカンから湯を足して俺に勧めてくる。


無下にするのも気まずいので、ひと口だけ飲む。

予想通り、灼けるような喉越しのあと、腹の底からポカポカと温かさが広がった。


「あんたの薬ってこれか?」

「ハハハ、確かに薬だな」


タルガンは豪快に飲み始める。


「あんたいける口なら、カップを出しなよ」


迷ったが、どうせ一日ここで過ごすのだ。

まあいいか、と鞄からカップを取り出し、ご相伴に預かることにした。


やがて、向かいの客も参加し、燻製やチーズを出し合い、ちょっとした酒盛りが始まった。


そして、次の休憩で用を足し、昼寝から覚めた時には、今日の停泊地が目前に迫っていた。


---


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