27.慕情
その後もモズの疾走に耐え、集落を経て、リリハランには二日目の昼に到着した。
王国の北端に位置するこの街は、薄い雪化粧をまとっていた。
視界の半分を占めるスハニ湖は対岸が見えず、海と錯覚しそうなほど広い。
だが潮の香りはなく、静かな淡水の匂いが鼻をくすぐる。
U字型の運河が街を抱くように走り、中央の島は関所になっている。
河岸は関所側にしかなく、街側には大きな橋が架かっていた。
――俺は無事、舟に乗れるのだろうか。
「さあ、着いたよ」
門番は顔パスで俺たちを通し、モズは広場の脇に馬車を停めた。
そして、まるで新人に仕事を教える先輩のように、舟の乗り方をテキパキと説明してくれる。
途中泊まることになる集落は村人がガメついから、
図々しさがないと野宿になる
とまで教えてくれた。
その言い方が妙に頼もしくて、俺は少し笑ってしまった。
身分証について恐る恐る聞いてみると、
モズは何も言わず俺の手首をつかみ、役場へと引っ張っていった。
エリンヒャの許可証を元に、身分証発行の手続きをしてくれる。
俺一人では絶対に辿り着けなかった窓口だ。
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「さて、あとは大丈夫かい?」
「名残り惜しいけど……世話になった」
「はは、私はモテるからね」
軽口を叩くモズの横顔は、どこか誇らしげだった。
「良かったらこれ、使ってくれ」
残りひとつのバームを差し出すと、モズは説明を聞きながら唇に塗り、
「へえ、いい香り! 君、才能あるよ」
と、お世辞か本音か分からないレビューを返してくれた。
その笑顔が妙に胸に残る。
未練がましくなりそうだったが、なんとか気持ちを断ち切り、
「マリオによろしく」とだけ言って、別れの握手をした。
そして、冷たい風の中へ一歩踏み出し、宿探しに向かった。
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