26.生まれた土地
モズはスピード狂だった。
俺はガッガッと突き上げられ、跳ね上がる体を荷台にしがみついてなんとか落とされないよう踏ん張っていた。
「急いでる?」
「え、どうして?」
互いに声を張り上げながら会話しているが、モズは挑戦的な笑顔で進路を見据え、さらに鞭を入れる。
やがて水場で停まり、馬と俺を休ませると、モズはストレッチをしながら会話の続きを始めた。
「せっかくの空荷なんだから、この子も走らせてあげなきゃ」
――いや、どう見ても馬はお疲れの様子ですが。
「本音は、お客さんを待たせた分を取り戻さないと私の気が済まないからだけど」
さらっと口にしてニヤッと笑うモズを見て、
もうリリハランに骨を埋めようか と一瞬心が揺れた。
ホスピタリティ加点。
「モズはこの仕事、怖くないのか?」
「うーん、街道は割と安全だし、いつもは父が一緒だから」
配送が遅れたことに関係していそうだが、余計なお世話なので踏み込まない。
「カゾヤマはなんで地元を離れたの?」
「親子の仲が悪くて飛び出したのさ」
なるべく嘘はつきたくないから、リアル人生から引用。
「へえ、そんなこともあるんだ。普通じゃないね」
本当に“普通じゃない”のか、ファザコンの琴線にでも触れたのか、
モズの表情が少し曇った。
「こっちじゃ珍しいのか?」
「だって、教会は神様だけじゃなく、育ててくれた土地や周りの人にも感謝して恩返しして、結束して暮らすのが“産まれた意味”だって教えてくれるでしょ?
私は信心深くないけど、言ってることは事実だし、ほとんどの人は同調圧力ってやつに馴染むからね」
「じゃあ、みんな一生同じ土地で暮らすんだ」
「田舎は罪人でもなきゃそうね」
意外と強い言葉が返ってきて驚いた。
モズは俺の表情に気付いて笑った。
「まあ、なんだかんだ理由をつけて出稼ぎから戻らない人もいるから、今のは気にしないで」
「生まれた土地で生きるのが一番か……なんとなく分かるよ」
今のところ戻る手段がなく、アテもない俺にはどうしようもできない。
だが、そんなことをモズに言えるはずもなく、曖昧に同意して旅を再開した。
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