21.ヨーニール商会
殺風景とは言ったが、買い物までやることもないので街を見て回ることにした。
通りの終点、街の突き当たりには結構な幅のある川があり、そこで大勢の男女が洗濯をしていた。
大量の作業着からして、鉱夫専属のクリーニング屋なのかもしれない。
皆、手足を真っ赤にして黙々と作業しているのが遠目にも分かり、この世界の決して楽ではない暮らしを改めて思い知らされた。
昨日は気付かなかったが、通りの脇の広場に市場を発見した。
川で捕れた魚を桶にごっちゃに盛っている露店が盛況で、その脇では痩せた根菜を前に値切り交渉をするご婦人が店主を困らせていたりと、活気にあふれている。
屋台が全くないのが不思議だが、鉱夫が金を使う時間になれば、この市場は一変するのかもしれない。
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宿に戻ると、爺さんに昼食を誘われた。
客が誘われるという言い方も変だが、実際に爺さんと食事をするのだから間違ってはいない。
「今日は猟師が鳥を届けてくれたから焼いてみたよ」
わあ、と大人げない第一声をあげてしまうくらいのキジの丸焼きが出てきた。
「こ、これ食べていいのか?」
「はい、もちろんだよ」
オーブンで燻されながら蒸し焼きになった鳥の脚を豪快にむしり取り、
ベリーの入ったソースをトロトロとかけて、
「はい、どうぞ」
と出してくれた爺さんに、心から感謝のお祈りをして口に運ぶ。
――はい、もう二度と靴底だけは食べません。
爺さんは、俺が涙を浮かべて肉を食べるのが可笑しかったのか、噎せている。
しかし、客が俺だけにせよ、宿にしてみれば食事も貴重な売上だろうに、随分気前のいいサービスだ。
やっていけるのだろうか。
「爺さん、これじゃ商売にならんだろ」
「この歳だから、もう趣味で開けてるようなもんだよ」
「無職の俺には眩しいわ」
「はは、いい仕事があるといいね」
「美味かった。ごちそうさん」
「ごちそうさん?」
やべ、チューナーの翻訳機能どうなってんだよ。
出身の村の挨拶だと適当に誤魔化して宿を離れ、
素晴らしい昼食に満面の笑顔でマリオの店に向かう。
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「ヨーニール商会」
マリオじゃなかったが、俺にとってはマリオだよヨーニール。
ドアを開けるとムワっとした匂いに包まれた。
魚の燻製が天井からぶら下がり、ところ狭しと様々な干物が籠に盛られている。
「来たな」
マリオが自信満々の腕組みで俺を迎えた。
これでもベルマにまで名の知れた商会で、特に干しキノコと火口茸は地方随一――と何やら自慢し始めたが、
“キノコ”と聞いた瞬間、あとの話が全く頭に入ってこなかった。
「うちのものは帰りに見繕ってやるから、まずは服と鞄だな」
商店街は閑散としていたが、旅人が少ない時期だからそんなものだろう。
厚手のシャツとバックスキンのモコモコカーゴパンツ、靴下と……マリオがテキパキと選んでくれた。
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「おい、ヨーニール」
「フッツ」
革なめし職人らしき男がマリオを呼び止めた。
「なんかこっちに来る荷が2日遅れてるってさ」
「やれやれ、先日の雨のせいかな」
「まあ、明日には旅籠の知らせが来るだろ」
旅籠には、到着が遅れた運び屋のために早馬を出して知らせてくれるサービスがあるとマリオが教えてくれた。
締切りに比べたら随分ゆるい時間の流れだが、この時代の交通や通信手段では仕方ない。
「あ! あんたには良い知らせかも」
「?」
「遅れてる馬車が3日後までに着いたら、あんたを旅籠で拾うよう頼んでやるよ」
「ベルマから来るのか?」
「いや、別の街だけど、そこからベルマに船が出てて、馬車よりかなり早く着ける。詳しくは運び屋に会えたら聞いてくれ」
「分かった」
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マリオの店に戻ると、奥さんがすでに俺の食料を袋に詰めていた。
火口茸は10時間種火を保持してくれ、毎回火起こしせずに済む優れもの。
耐火の専用ウェストポーチも用意してくれていた。
街道付近には野営のシェルターが点在していて、目印の立て札があることも教えてくれた。
「火口は明日出発する時に渡すから、忘れず寄れよ」
「色々助かったよ。みんないい人だな、この街は」
「礼はいいから、うちの宣伝よろしくな」
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マリオと別れ、宿に戻ってベッドに横たわる。
「今日は悪くない日だった」
最悪の始まりから、この世界が大嫌いだった。
だが、人の親切にあてられて――石の心が少し動いた気がした。
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