20.エリンヒャの商人
この街の朝は騒がしい。
広場では鉱夫たちが大声で話しながら焚火を囲んでいる。
鉱夫は広場で班に分けられ、小忙しく往復する馬車に次々と乗せられて鉱山へ運ばれていく。
仕事かあ……。
この世界の肉体労働は無理そうだし、俺に何ができるんだろう。
そんなことを部屋の窓からぼんやり眺めていると、下の階から笑い声が聞こえてきた。
茶の香りにつられて降りていくと、商人らしき男が荷を運び込んでいた。
「おはようございます、お茶をどうぞ」
老執事を思わせる爺さんは、俺を見るなりそう言って微笑んだ。
「こんな時期に客とは珍しいじゃないか」
俺が名付け親なら絶対“マリオ”と名付けているであろう見た目の商人が、
俺に近寄ってきて挨拶をしてきた。
「あんた、商売かなにかで来たのかい?」
「いや、旅の途中に寄っただけだよ」
「こんな時期に大変だな、どこまで?」
「いやあ、仕事を探して街に出ようと……」
爺さんが助け舟を出してくれた。
「うちのお客さんにあれこれ聞くもんじゃないよ」
「おっと、済まねえ」
そう苦笑いしつつも、まだ話したそうにその場に留まっている。
「それで、目処は付いたかね?」
爺さんが茶を淹れながら、のんびりと聞いてきた。
「やっぱり爺さんの言う通り、ベルマに行こうと思う」
「そうかい。歩きではちょっと厳しいと思うが」
マリオがまた首を突っ込んできた。
「いや、無理無理。こっからだと旅籠まででも四日は歩く。せめて次の旅籠行きの馬車を待った方が賢いぜ?」
「ここの滞在許可が明日までなんだ」
「あー、この街はそこだけは厳しいからな」
本気で悔しがってくれるこの商人が、ちょっと好きになった。
「歩いて馬車が追いついてくるまでは頑張るよ。この辺りは物騒かな?」
――恐らく世界一物騒な俺が聞くのもなんだが。
「この辺りの街道は銀の輸送で軍がしょっちゅううろついてるから、野盗の類は寄りつかないよ」
「人を襲う獣も滅多におらんが、この季節は焚き火を切らしたら凍っちまうぜ」
「まあ、誰かの焚き火跡を見つけたら、早めでもそこで夜明かしするんじゃよ」
この“冒険者っぽい”やり取りは、俺に少しだけ元気を与えてくれた。
「そうか。なら昼から旅支度するかな」
マリオがすかさず、
「お、買い物か? うちはあの黒壁の店だ。昼時には配達から戻るから、良かったら案内してやるぜ、な?」
爺さんに目を向けると、大丈夫だと笑顔で頷いていたため、
俺は素直にマリオの世話になることにした。
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