2.灰都
街に近づくと砂嵐は止んだが、曇天と街並みのせいで世界は灰色のままだ。
住宅街だったのか、建物は全体的に背が低く、石積みの家屋が山の裾野に連なっており、どこか遺跡のような雰囲気を漂わせている。
状況確認なら高いところに限ると判断した俺は、瓦礫を避けながら小径を昇り始めた。
三十分ほど歩いたところで、水がないことが気がかりになってきた。
遠くに連なる雪山は歩いて行ける距離でもないし、灰に覆われた街は明らかに現代のものではなく、火砕流に呑まれたかのようだ。
もう少しだけ昇ってみて、何もなければ引き返そう。
そう考えていると、人の足跡を見つけた。
先ほどの砂嵐からして古いものではない。
むしろ真新しいと言ってよい、はっきりとした足跡に緊張感が高まる。
観光地ではなさそうだし、目的があるとしたら遺跡発掘か何かだろうか。
仮に人がいるなら、状況はいくらかマシになるかもしれない。
そう思い、俺は足跡を辿ることにした。
一時間ほど探しただろうか。
息が上がり座り込んでいると、風に乗って人の声がした。
方角を頼りに歩いていくと、荷車に積み込みをしている三人の人影を見つけた。
「すみません! 水を分けてもらえませんか!」
俺は特に警戒もせず三人に近づくと、聞き慣れない言葉で何やら言ってきた。
まあ、日本じゃないのは間違いないし、ジェスチャーでなんとかしてみよう。
「あー、水、ウォーター、アックア」
俺が水を飲む仕草を繰り返すと通じたのか、革の水筒を差し出してきた。
民族衣装のような革製の服装に、日焼けした彫りの深い顔立ちをした男たちは、警戒しているのか表情が固い。
水筒を返し、手を合わせて礼を伝えていると、一人がジェスチャーを始めた。
俺を指で指してから、あちこちを指す。
何度か繰り返されるうちに、どこから来たのかを尋ねているのだと分かった。
俺は塔があった方角を指し、両手で塔の形を作ってみたが通じず、地面に塔の絵を描いた。
男たちは、俺が塔から来たと理解したのか表情を緩めた。
そして荷車に座るよう勧めてきたので、俺は素直に従った。
積み荷に目をやると、古い鍋や金属くずのようなものが積まれており、彼らの目当てが遺物漁りだと分かった。
それにしても、塔の持ち主は偉い人なのだろうか。
もしかしたら彼らの雇い主か。
そんな想像をしながら空を眺めていると、不意に首が絞まった。
「ぐっ……!」
慌てて首に手をやると縄のような感触。
そして男の粗い息づかいを背中越しに感じた。
俺は何をされているのか分からず、とにかく藻掻いたが、視界が赤く昏く染まり、酷い耳鳴りがした記憶を最後に――俺は死んだ。




