16.ヤマノ
「よう、また会ったな」
頭上から聞こえた声に驚き、俺は思わず顔を上げた。
そこには、消し飛ばしたはずの絞殺魔が立っていた。
驚愕の再会に頭が勝手にフル回転を開始してどうにか理解しようとぶつ切りの考えが次々と浮かんできた。
この世界はまさか、誰もが不死なのか?
だとしたら逆転無罪だろ……!
まさかゲームの中に飛ばされたパターンか?
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「さて、お前はさぞかし混乱してるだろうが、俺はお前の同類だ。少し話そうや」
他の異世界人が存在する可能性は当然あったのに、俺はそれを失念していた。
なぜ初対面で敵対するのかは分からないが、敵である以上、こいつから逃げなければならない――
そう、必死に策を巡らせていると男はやれやれと言った調子で俺をなだめ始めた。
「おい、お互い不死身なのがわかったんだから冷静になれよ」
「……」
「そう怒るなよ。今回はちょっとした提案があるから、落ち着いて話を聞いてくれよ」
「いきなり俺を絞め殺したやつなんか信用できるか」
俺が敵意を剥き出しにすると、絞殺魔はのんびりした口調で言った。
「それもお互い様だ。まずは縄を解いてやるから、そこから仲良しごっこといこうや」
男は一方的に一時休戦を告げ、縄を解き始めた。
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「……った」
「あん?」
「なんか食わせろ!」
「おお、いいぜ」
縄を解いた俺を気にするでもなく馬車へ歩いていき、
すぐに戻ってきた男は俺に何かを放り投げた。
――げ、靴底かよ。
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「色々聞きたそうだが、まずは俺が勝手に喋るから質問タイムはその後だ」
物言いからして転移者なのは間違いない。
俺は肩をすくめて了解した。
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「まずは自己紹介からな。俺はヤマノ・エイジだ。で、あんたはカゾヤマさん」
口を開きかけた俺を、手振りで制す。
「俺の異能だから気にするな。俺は転移者を察知できるのさ、名前付きでな」
塔にはコンプライアンスはないらしい。
「まあ、近くに居ると分かるだけで、レーダーみたいにはいかないがな」
スキルをベラベラ喋るやつは詐欺師かアホだが、ヤマノはどちらだろう。
「これで宿場のカラクリは分かったか?」
「ああ」
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「よし、次になんで狙ってたかだが……俺が最初にこっち来た頃は、あちこちに転移者が居て堂々と暮らしてた。
みんな異能で怪我や病気を治したり、正義のヒーローやったり、神様扱いされてたぜ。
なのに俺は……ハズレスキルってやつだな」
顔をしかめるヤマノ。
誰かに言われて悔しかったんだろう。分かりたくはないが、分かる。
「俺は暫く異世界コンシェルジュをやって、新参に親切にしてやってたが……ある日、方針変更することになった」
「ほう?」
「灰都の伝承は知ってるか?」
「ああ」
「権力者が教会使って“異世界人は伝承の再来だ、耳を貸すな、関わるな”とやり出したからやべえと思って身を隠した」
「異世界人は危険分子ってか」
「権力者からしたら、俺らみたいなのをのさばらせておくメリットはねえ。そっからは排斥や処刑の御触れを出す領主が次々と出てきた」
「それであんたの異能に別の使い途ができた」
「ああ。俺は、元々異世界人なのを伏せてたし、再生さえバレなきゃ、現地人と見分けがつかねえから狩る側に潜り込んだ」
ヤマノは転移者であることを隠し、警吏として異世界人を狩り追い詰めることで地位を得たと続けた。
「俺をいきなり殺したのは何だったんだよ?」
「異世界人だと証明するには再生させるしかねえ。灰都に張り付いてクズ漁りを証人にする狩りを編み出して楽に出世できたぜ」
確証を得るためだけに殺害するのも狂ってるが、死体を調べ、身体的特徴を証拠にする方法まで考えたのはもはや才能だろ。
「再生しようが繰り返し追い詰めて音を上げさせるのはエグいやり方だな」
「知るかよ。ここで生きるのは想像以上に大変なんだぜ?」
「それにしたって、」
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話は突然の雨により中断された。
迷惑そうに空を見上げて
ヤマノは馬車を指し、
「続きはあそこでやろうぜ」
と言い、俺を馬車に乗せた。
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