12.絞殺魔
ロマンのない異世界にがっかりさせられた後、宿に戻ろうと歩いていると、干し肉の店を発見したので保存食を買い込むことにしたが、これがまたおいしくない。
どれもビーフジャーキーの見た目をした“靴底”で、唯一食べられそうなダイスカットの干物はスープの具材だった。
俺はそれを一掴み(この世界の量り売り)買って宿へ向かったが、途中で見覚えのある連中に出くわし、慌てて路地に身を潜めた。
「あの鍛冶屋、足元見やがって」
「まあいいじゃねえか、拾い物もあったんだからよ」
「次捕まえりゃ当分遊んで暮らせるぜ」
――灰都のあいつらだ。
知らん顔していればそれまでなのかもしれない。
だが、記憶が俺の恐怖を体に伝え、金縛りのように動けなくなる。
そのまま様子を窺っていたが、連中は大した話もせず居住区らしき方へ去っていった。
塔から来たと言ったのがトリガーだったとして、
この世界からすると珍妙な身なりで歩き回っている俺が、再び目を付けられる可能性はゼロじゃない。
街を出ることを考えながら歩いていると、いつの間にか色街に迷い込んでいた。
道端に立つ花売りの少女に声をかけられ、花を買ってやりつつ尋ねた。
「宿代わりになる店はあるか?」
「どのお店でも泊まれるよ? 高いけど」
「そうか、ありがとう」
豪遊できる身分ではないものの、絞殺魔の再登場で雑魚寝を不安に思った俺は、急遽予定を変更して色街に潜伏することにしたのだ。
その通りは賑わっていた。
俺はフードを深く被り、適当な店を探す。
昼に見かけた隊商の護衛団も物色しており、世間の狭さに緊張感が増す。
そして白銅貨(銅貨100枚)8枚を支払い、とある店に入った。
毛皮を重ねた敷布に腰を下ろすと、すぐに酒が運ばれてきた。
イーラと名乗る娼婦が湯で体を拭き始め、俺は身を任せながら尋ねた。
「ここから王都に向かう乗り合い馬車はあるか?」
「王都行きの隊商があれば馬車は出るけど、あとは乗り継ぎしか知らない」
「できれば明日出発したい」
「なら乗り継ぎしか無理だよ。あんたそんなことも知らないなんて、どっから来たのよ?」
地図を思い出しながら適当に答える。
この世界の地理など庶民はほぼ把握しておらず、東の〇〇領の村とでも言えば、架空だろうが知る術もない。
「ふーん、よくわかんないけど遠くから来たのね」
「ああ、遠くだ」
これは嘘じゃない。
イーラは乗り継ぎ馬車について丁寧に教えてくれた。
- 数日とはいえ寝食を共にするため、食料は持ち寄り
- 炊事やテント設営の分担あり
- 女性や子供が乗る場合は護衛を追加し、全員で割り勘
- 護衛は国に登録された者しか資格がない
- 国が“福祉政策”として宣伝している制度らしい
基本料金をどう捉えるかで印象は変わるが、合理的な仕組みだ。
さらにイーラは、灰都の伝承についても話してくれた。
外から来た神が人々に“不死の禁術”を授け、闇の国の繁栄を画策したが、
ローカル神の“翼神”が都を焼き払って退けたという。
「まあ、教会が権威を振るうための作り話だろうけどね」
「俺のワクワクに水を差すな」
「あはは」
塔についても聞いてみたかったが、口に出す勇気がないまま時が過ぎていった。
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