113.本物か偽物か
「最初に言ったと思うが、ここで三択に進むこともできる。どうする? 真実を理解するのは楽ではないぞ」
「俺は知りたがりだ。始めてくれ」
「では呼称を固定しよう。地球で肉体を持つ存在は旧人類。君たちは新世界の新人類だ」
俺は律儀に復唱した。
「まず、君は“旧人類の概念を持つ新人類”だ。なぜそんな立場なのかわかるかな?」
「何も知らされず、この世界にダウンロードされたからだろ」
「そうだ。仕組みを理解して同意した者は肉体を棄てることを選んだ。だから新世界に抵抗がない。君はその前提を飛ばされた」
「『おはよう、こういう経緯で電脳化しちゃったけど嫌なら消すよ?』じゃダメだったのか?」
「情報格差があるまま選択させるのは、公正中立に反する」
「その割にはハードモードだったけどな」
「偽りの疑念をリセットするには、生への執着を喚起する人生体験が最適なのだ」
「それで異世界詐欺かよ」
翼神は肩をすくめた。
「好奇心をくすぐらないと人は動かない。そして君は動いた」
「種明かしされたら騙されたとしか思わねえよ」
「まだ“偽りの世界”という思いが拭えないようだね。試しにエリンヒャにペストでも撒いてみようか?」
「からかうなよ。フィクションだと分かってても、人間は感情を揺さぶられるんだ」
「なるほど。君が世界を疑いながら、リッカさんにペンダントを贈ったのはロールプレイだったのか」
「そういう次元の話じゃねえだろ」
「価値観だよ」
「何?」
「主観の一種だ。本物か偽物かを決めるのは材質ではなく、感情を動かす価値があるかどうかだ」
「本物を模倣したデータには違いないだろ」
「だとしてもペンダントは価値を失うかね? リッカさんが喜び、君が喜ぶ。君の価値観は材質が重要なのか?」
「屁理屈だ……」
「ゲームの課金は良い例だ。材質ありきなら金を払わない。人間が買っているのは“価値”だ」
「……」
「君が固執する物理的オリジナリティは、“模倣は必ず劣る”という先入観から来ているのではないかね?」
「……否定はしない」
「システムは15万年かけて人体と生理現象を再現した。オリジナルに劣らないのは、君自身が体験済みだ。そうなると残る論点は“個の意識”だ」
「そうだ! 肉体を再現できても、意識だけはシステムの作りものだろ!」
「君はこの世界の住民を“システムのアルゴリズムに繋がった端末”だと思っている。……だが、違うのだ」
「騙されるかよ。リッカもゴイもエルマも、よくできたプログラムなんだろ? あんたはそれを相手に涙や鼻水を垂らす俺を見て、『価値を感じてもらえて何より』って笑ってたんだろ!」
「感情は毒だとアズィが言っていただろう? また休憩を挟もう」
憤る俺をなだめるでもなく、翼神は一方的に休憩を宣言し、部屋を出ていった。
---




