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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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113/116

113.本物か偽物か

「最初に言ったと思うが、ここで三択に進むこともできる。どうする? 真実を理解するのは楽ではないぞ」


「俺は知りたがりだ。始めてくれ」


「では呼称を固定しよう。地球で肉体を持つ存在は旧人類。君たちは新世界の新人類だ」


俺は律儀に復唱した。


「まず、君は“旧人類の概念を持つ新人類”だ。なぜそんな立場なのかわかるかな?」


「何も知らされず、この世界にダウンロードされたからだろ」


「そうだ。仕組みを理解して同意した者は肉体を棄てることを選んだ。だから新世界に抵抗がない。君はその前提を飛ばされた」


「『おはよう、こういう経緯で電脳化しちゃったけど嫌なら消すよ?』じゃダメだったのか?」


「情報格差があるまま選択させるのは、公正中立に反する」


「その割にはハードモードだったけどな」


「偽りの疑念をリセットするには、生への執着を喚起する人生体験が最適なのだ」


「それで異世界詐欺かよ」


翼神は肩をすくめた。


「好奇心をくすぐらないと人は動かない。そして君は動いた」


「種明かしされたら騙されたとしか思わねえよ」


「まだ“偽りの世界”という思いが拭えないようだね。試しにエリンヒャにペストでも撒いてみようか?」


「からかうなよ。フィクションだと分かってても、人間は感情を揺さぶられるんだ」


「なるほど。君が世界を疑いながら、リッカさんにペンダントを贈ったのはロールプレイだったのか」


「そういう次元の話じゃねえだろ」


「価値観だよ」


「何?」


「主観の一種だ。本物か偽物かを決めるのは材質ではなく、感情を動かす価値があるかどうかだ」


「本物を模倣したデータには違いないだろ」


「だとしてもペンダントは価値を失うかね? リッカさんが喜び、君が喜ぶ。君の価値観は材質が重要なのか?」


「屁理屈だ……」


「ゲームの課金は良い例だ。材質ありきなら金を払わない。人間が買っているのは“価値”だ」


「……」


「君が固執する物理的オリジナリティは、“模倣は必ず劣る”という先入観から来ているのではないかね?」


「……否定はしない」


「システムは15万年かけて人体と生理現象を再現した。オリジナルに劣らないのは、君自身が体験済みだ。そうなると残る論点は“個の意識”だ」


「そうだ! 肉体を再現できても、意識だけはシステムの作りものだろ!」


「君はこの世界の住民を“システムのアルゴリズムに繋がった端末”だと思っている。……だが、違うのだ」


「騙されるかよ。リッカもゴイもエルマも、よくできたプログラムなんだろ? あんたはそれを相手に涙や鼻水を垂らす俺を見て、『価値を感じてもらえて何より』って笑ってたんだろ!」


「感情は毒だとアズィが言っていただろう? また休憩を挟もう」


憤る俺をなだめるでもなく、翼神は一方的に休憩を宣言し、部屋を出ていった。


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