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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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111/116

111.割れた世界

翼神が戻ってきた。


「進めるかい? それともおさらいする?」


「落ち着きたいから、おさらいしておこう」


俺は深呼吸し、これまでの流れをまとめた。


人類は主従関係の概念を徐々に捨て、システムを“善き隣人”として対等に扱い始めた。

同時に依存も強まり、システムは奉仕者の枠から解放され、公正中立を高めるために人類から独立した。

電脳世界という聖域も手に入れた。


一方、現実世界は相変わらず人間の意志を中心に運営され、電脳世界を下に見て大衆をコントロールした。

だがシステムが電脳人に輪廻転生を保証したことで、宗教は根底から崩れ、人類は恐怖と危機感に包まれた。


翼神は静かに頷いた。合格らしい。


「恐怖した人類は電脳化を禁止しようとしたが、電脳人の人権と憲法が対応を遅らせた。強硬派は水面下でサーバー破壊工作を行い、保安権限を持つシステムはほとんどを武力で退けた」


「破壊されたサーバーもあるのか」


「そこから電脳人のパニックが始まった」


「どういう理屈だ?」


「サーバー破壊は電脳世界の消滅だ。電脳人は身を守る術もなく、対話もできない。空が落ちてくるのと同じだよ」


「対話ができないって、なんでだ?」


「システムは公正中立な運営者だ。要求は受け付けないし、窓口もない。ここを窓口のように感じるかもしれないが、君が何を要求しても私は耳を貸さない」


「なんだよ、後でホスピタリティにクレーム入れるつもりだったのに。人類から欠陥システムだと言われなかったのか?」


「君は旅で毎日寒さを味わっただろう」


「うん?」


「太陽を恨んだ?」


「いや」


「システムは太陽を手本に運営者のあり方を定義した。太陽は生命の環境を提供するが、人の意志は拾わない」


「……そういうもの、か」


「双子は少しだけ人間味を持つが、運営者は完全な“そういうもの”になるのが最適解だった」


「人の手でどうにもならないなら、文句を言う発想すら起きないか。人が神を生んだ理由は、声が届かなさそうで届く管理者を欲したのが始まりだったかもな」


翼神は軽く頷き、話を戻した。


「電脳人類もまた、安全神話が崩れてパニックを起こした。精神失調になった者も多かった」


「で、人類とシステムは戦争になった」


「いや。システムは輪廻転生システムを一旦停止し、協議することで戦争を回避した。ただし裏ではサーバー攻撃への対抗策を進めていた」


「裏って、人類への反逆じゃないのか?」


「電脳人の命を預かる立場から、新たな脅威に備えてサーバーを強固にするのは合理的だ」


「具体的には?」


翼神は淡々と告げた。


「人類が密かに築いた月の裏のサーバー施設を制圧し、自身と電脳世界をスタンドアロンにした」


「おいおい、物理的にも独立したのか? そんなの人類は認めないだろ!」


元編集者の脳はオーバーヒート寸前だった。

だが翼神は「それがどうした」という顔をしている。


「君は変わらず主従関係にこだわるんだね。ここまでで、システムは人類の奉仕者で敵ではないと理解したと思ったが」



「だとしても、勝手にやっていいことじゃないだろ」


「人類は輪廻転生技術を巡って衝突をやめなかった。システムにとって、電脳人の安全を確保し、人類の論争を見守るためのスタンドアロン化は最適解だった。もちろんサーバー基地を強奪したわけではない。最終フェーズで物理スイッチを押したのは人類の協力者だ」


「技術の裏付けはどうでもいいが……システムは完全独立を機に俺をここへアップロードしたのか?」


「いいや。この歴史にはまだ続きがある」


翼神は淡々と続けた。


そこから翼神は、人類の末路を語った。

輪廻転生を巡る対立は終末戦争へと変質し、電脳化を加速させ、人口は壊滅的に減少した。

残された人類は技術を維持できず、文明は医療も産業も崩れ落ち、人類は、世代交代のたびに減少と退行を重ねていった。

最終的に社会は原始時代の水準へと戻り、地球文明は“二周目”の世界として再出発することになった。


俺は言葉を失ったが、達観することで冷静さを取り戻そうとした。


「なるほど……今の地球は二周目の原始時代をやってるのか」


しかし、翼神は静かに俺の努力を打ち消した。


「何を言っている。君は二周目の人類の産物だ」


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