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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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110/116

110.輪廻転生

俺は、翼神が再開しようとしたのを挙手で止めて、たまには先手をやりたいと申し出た。

翼神は反対もせず、どうぞと譲ってくれた。


「電脳化の精神失調なら聞き憶えがあるぞ。自分のオリジナリティを疑って自己否定に陥るとか、何もかもに飽きて退屈で狂うとか、仮想世界を偽物と定義して虚無に沈むとか」


「全て、初期の世界設計の弊害だ」


「システムもミスるんだな」


「最初は“人類が自由に欲求を叶える世界”を望んだ。システムはそれを忠実に実装した。君が想像したような、剣と魔法でやりたい放題の世界もあった」


「そっちが良かった」


「君が並べた精神失調が対価だぞ?」


「撤回だ。反対派は規制のチャンスだったろうに、しなかったのか?」


「人類はユートピア創造の欲求を諦められなかった。電脳世界の精神失調は“喫煙の健康リスク”くらいの扱いにはなったが、ユートピア創造そのものは止まらなかった」


「えらく他人事だな」


「当時のシステムには、ユートピア論争の“最適解”を出すデータが不足していた。見守るのが最適解だった」


「俺は例外だが、自己責任でも危ないと思ったらやめればいいか」


「ああ。だが君の時代の概念は“肉体世界と電脳世界を行き来できる”前提だろう。しかし電脳化は、そうした仮想体験ではない。電脳化には“肉体の放棄”が条件だった」


「なんでそんなリスクを」


「二重存在の否定だ」


「……そうか。不老不死の電脳人が機械の体で世界を跨げば、人口爆発どころじゃない。逆に人類が電脳化に殺到したら、人口減少で文明が崩壊する」


「当時の電脳世界は“再現度”において技術的限界の壁にぶつかっていた。人類は肉体世界でしか得られない感覚を犠牲にしてまで電脳化を選ぶ雰囲気ではなかった」


「未知への恐怖による忌避感もあっただろうな」


「加えて、支配層は被支配者の流出を防ぐために、電脳化を“死”や“現実逃避”と定義したプロパガンダを続けた。天動説社会の再来だ」


「肉体の放棄ルールが文明の崩壊を食い止めたわけか」


「しかし、それで終わらなかった。支配層が油断している裏で、システムは電脳世界の理想を追求し続け、ある日転換期が訪れた」


「技術の進歩か?」


「それもあるが、システムは電脳世界に“寿命”を実装し、“輪廻転生”を保証したのさ」


「馬鹿な! 社会が崩壊するぞ」


「そう。システムは人類の死生観に穴を開けた。天国と地獄を取り上げ、あらゆる宗教を根底から破壊した」


「……いや、そこで栗まんじゅうの問答か」


「そうだ。人間の性分が精神失調の原因なら、寿命を設けるのが最適解。肉体社会では不可解だった“輪廻転生の保証”を実装した。人類は“不老不死に代わる理想”に熱狂する派閥と、“社会維持”を重視する派閥に割れた」


「人類が否定せず……割れた、だと?」


「一旦、休憩にしようか」


翼神は俺の混乱を汲み取り、静かに席を立った。


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