11.旅支度
目抜き通りをフラフラと歩いていると、宿場に到着したばかりの隊商の一団を見かけた。
護衛と思しき、槍や弓で武装した男たちが大声で話をしている。
「まずは温泉だな」
「ナーシャちゃん、まだいるかな」
「俺は一眠りしてえよ」
長旅だったのか、皆好き勝手に思いを口にしている。
ヒゲ面のリーダーらしき男は隊商から金を受け取り、荷台で袋を秤にかけていた。
「お前ら、先に装備を手入れしておけよ。今日の宿はイスルギだ。後は好きにしろ」
あっさりとした号令に、有能さを感じる。
仕事終わりにいつもダラダラと説教を始める、かつての上司とは大違いだ。
男たちが向かう方角に目をやると、鍛冶屋が集まる横丁が目に入った。
そういえば俺も旅支度をした方が良さそうだな。
鍛冶屋横丁を歩いていくと、ほとんどが修理や研ぎ屋だったが、路地の角に道具屋らしきロゴの看板を見つけ、試しに入ってみることにした。
「いらっしゃいませ!」
元気の良い少女が笑顔で出迎えてくれた。
これこれ、異世界といえばハーレム展開でしょ。
俺は真面目な顔で物色し、少女にカマをかけてみた。
「この店に魔法剣は置いてないのか?」
ないのは分かっていても、ファンタジー設定に諦めがつかないのだ。
「は? 冷やかしですか?」
「あ……ごめん、ただの悪ふざけだから」
「大人げないこと、やめてもらえます?」
予想以上の塩対応に俺は慌てた。
店の奥では、父親と思しき店主が無表情で腕組みをしている。
俺は気を取り直し、
「冬用のブーツと手袋を見繕ってくれるかな」
真面目に買物することにして、要望を告げた。
そこから少女は再び営業スマイルを貼り付け、本来の仕事を果たし、気付けばシャツや靴下まで買わされていた。
大荷物になり、鞄が欲しくなったが店は扱っていなかったため、鞄屋を紹介してもらってバックパックを手に入れたところで買い物を終えた。
「ステータスオープン……ストレージ!」
町外れの空き地に虚しい言葉が響く。
一応試せることとしてやってみたが、何も起きず、効果があったとすれば俺の頬を赤らめさせたくらいだ。
チートは存在するのに、モンスターもハーレムもない。
このチグハグな世界に連れてきたやつが、俺に何をさせたいのかは分からない。
最初のようなイベントは勘弁だが、そのうち何か起こるのだろう――
考えても仕方がないため、イベントは神様任せにすることにして、俺は宿に戻ることにした。
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