109.理解したがる人の性
俺は灰都と教会の伝承について推理していた。
翼神の微笑が「バレたか」と言っているように見えたからだ。
「紙とペンが欲しいな」
誰も応えないし、どこからも湧いてこない。
翼神のホスピタリティをひっそり減点した。
人類の歴史講義はまだ途中だが、
この世界を解くヒントだと仮定して、思いつく限りを脳内で整理した。
- 歴史は失敗で、この世界は“教訓”として設計されている。
- 伝承と灰都は、人類支配層がAIとの主従関係に固執した物語と、その結末の象徴。
- 世界そのものが人類再教育プログラム。
- ゴールはエリが言った「定着」。
- 「定着」とは現地人(AI)との融和。
- 不正解なら灰都(塔)からやり直し。
- 俺(人類)とリッカ(AI)の関係が融和の正解モデル。
- アズィや王は、人類支配層の代役。
- チートは謎。不要論が正解か?
- 寿命の設定も謎。
- システムは人類の奉仕者だから、思考誘導があっても動機は“人類のため”。
「うーん、筋は良いけど埋まらない部分は、残りの歴史講義が必要か……」
「何か思いついたのか?」
「うわ、びっくりした! 急に現れるなよ」
「君は考え事に夢中になる性分だな。前も“リッカ、リッカ、リッカ”ってやってたよね?」
翼神は俺の黒歴史を平然と抉ってくる。
「ん? ……アンタ全部見てたのか?」
「気にしなくていい。私は人間ではない。壁や薪と同じだと思い給え」
「喋る壁や薪なんか居るかよ! ……ちょっと欲しい時あったけどさ」
「飲みものをどうぞ」
今回は緑茶と栗まんじゅう。
何か意味があるのか?
「別に意味などない」
「だから読心術はやめろ」
「栗まんじゅうに意味はないとして、意味を求めるのはいかにも人間らしい」
「何だよそれ」
「人間は未知を恐れるあまり、全てを理解したがる。その根源は“死”の存在だ。
逆に死がなければ理解を怠り、好奇心の喪失から虚無を生む」
「禅問答でも始まったのか?」
「違う。精神失調に関する話だ」
「いきなり講義始まったのか?」
「これは予定外だから仕切り直そう。……それで、私の問いには答えないのか?」
「まだ纏ってないが、この世界の設計と、さっきの歴史の関連を推理してたんだよ」
「話してみたまえ」
翼神は双子のような“刺すような怖さ”はない。
だが、逆らえない雰囲気を常に纏っている。
多分、嘘が一切通用せず、機を逃せば二度と答えなさそうな無関心さが原因だろう。
俺は考えをありのまま話した。
「良い推理だな」
「正解と受け取っていいんだな?」
「私は正解を告げない。君が考えるのを止めるのは不本意だからな」
「永遠のテーマにしろってか」
「正解だ」
「いきなり二枚舌になるなよ」
「ケチだと思われるのは不本意だからな」
ふと、正解などない気がした。
システムとどう向き合うかは、結局は個人の価値観だ。
この世界でヤマノは支配層側に回り、自由を謳歌した。
俺は敵として世界を壊そうとして、システムに隔離された。
これは“世界の保護以外には干渉しない”という自由裁量の証拠だ。
システムは善き隣人の精神を理想としながら、教会の教義にはしない。
つまりシステムは、世界安定のために“善き隣人に至る道”を照らすが、
人類に指図も強制もしない。
……道と言っても、俺にはエクストリームモードだったが。
それでも、自由裁量の副作用であって、システムに悪意はない。
「人類の奉仕者を逸脱しない設計……」
俺の呟きに、翼神はどこか満足しているように見えた。
「一段落したようだな。茶を飲んだら再開しよう」
俺は頷き
栗まんじゅうを口に放り込み、茶を啜った。
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