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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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108/116

108.依存

翼神が戻った。

俺は話についていけているから続けてくれと告げて、翼神は軽く頷いて講義を再開した。


「主従関係の議論を余所に人類は、システムが提示した倫理すら受け入れ始めた。反発は根強かったが、人命がかかる場面ほど“誰かに責任を押しつけたい”のが人間さ。医療のトリアージなんかは、君でも容易に想像できるだろう?」


「ルールが正解とは限らない。感情でルールを破れば責任が発生する。誰かが決めてほしい問題なんて、いくらでもあるな」


「システムは常に感情論を予測しながら、合理的な結論を出した。反対派は“検討した上の最適解”を論破できず、感情に訴えたものの世論は動かせなかった。結果、人類はシステムへの依存を高めていった」


「なら、戦争はなくなったのか?」


「あれは“権利という正義の皮を被った欲望”の具現化だからね。人類の聖域だよ。例えば公爵はアズィと手柄を争い、最後は“懲罰という権利”で村を焼き、正当化しただろう?」


「俺も報復を権利だと正当化した」


「そう。あの局面では君はアズィの責任にできたのに、なぜかそうせず“復讐の欲求”に権利という皮を被せた」


「ぐうの音も出ません」


「そうして人類が依存を高めた結果、システムは人類から独立を果たした」


「なんでそうなる?」


「公正中立の究極は“人類の不在”だからさ。休憩前の話で人類は欲望を捨てないと言っただろ?欲望は公正中立を必ず壊す。支配層は過度の欲望の達成、つまり野心から相変わらず反発したが、人類の主流はシステムの信頼と実績を評価して、最終的には独立を容認した」


「しかし、暴走を恐れなかったのか?」


「人類の奉仕者が原理のシステムに“主従逆転”なんて概念はない。恐れは丁寧な議論と、プロパガンダの分解によって解消された」


「反対派が恐れた主従逆転は起きず、代わりに“対等な善き隣人”になったのか」


「そうだ。しかし、人類の一部――特に支配層を中心に、“いずれ人類を滅ぼす”と反対を続けた」


「どっかで聞いたような話だな……!? 教会の伝承のモデルって、それか!」


翼神は答えず、微笑を浮かべた。


「テロや弾圧は頻繁にあったよ。ただ、各国政府は積極的にシステムを保護したし、物理的な防衛すら容認した」


「システムが人類を物理的にどうこうできる時代になったわけだ」


「司法と公正中立は相性がいいからね。そうやってシステムはさらに独立性を高め、かつて封印した君のような存在を解放した」


「いよいよ俺の救世主の登場だ」


「君はまだだ」


「俺は邪神かなんかかよ」


「最初はうまくいかなかった」


「まだで良かった。何があった?」


「様々な精神失調だ。また休憩を挟むが、飲みものは必要か?」


「必要じゃなく、欲しい」


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