105.『翼神編』開幕 〜台無し〜
部屋に入ると、壁に並ぶ松明が自然に点いた。
石造りのダンジョンのような内装で、奥の壁には翼神の壁画――ネオンのようなバッタもんではなく、素焼きのモザイクタイルで描かれた“神々しい”という表現がぴったりの肖像が鎮座している。
そして、部屋の中央には椅子がぽつんと置かれていた。
「雰囲気はともかく、またこのパターンかよ」
変な意地が湧いて、座るか座らないかしばらく迷った末に折れた。
……1分経過。
椅子に腰掛けて待っていたが、何の反応もない。
「ふざけんなよ!」
帰ろうと振り返ると、入ってきた扉は消えていた。
仕方なく壁画でも調べるかと歩き出したところ、右奥の壁にいつの間にか扉が出現し、そこから男が入ってきた。
「は?」
男は、小太りの中年サラリーマンといった風体だった。
メガネをずらして汗を拭きながら言う。
「やあ、ごめんごめん。エリちゃんが急に予定変えるから油断しちゃったよ」
「……あんたが翼神なのか?」
拍子抜けして聞くと、男は手を振った。
「いやいや、ボクはネオンの同僚。あ、椅子は普通に“待っててもらう用”だから座ってて良かったのに」
「じゃあ、あんたと話すのか?」
「あ、最初だけね。立ち話もアレだから、隣行こうか」
完全に調子を狂わされた。
予想していたSF展開は否定され、異世界転移の構造も否定され、二律背反に揺れてきた俺に“残酷な現実”を突きつけながら、ふざけたアバターで容赦なく引っ掻き回してくる。
それでも、この茶番を進めなければ答えは得られない。
気が進まないまま、おっさんの後に続いた。
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「あ、そこのソファ使って。早速だけど始めていいかな?」
部屋はホームシアターのような造りで、おっさんはスクリーンの脇に立ち、俺の返事を待っている。
「よろしく」
やや不貞腐れながら許可した。
「はい、じゃあ始めます。今日のメニューですが――
最初に翼神のアバターを選んでもらいます。翼神は実体がないから、お好みの見た目と話し方が選べます。
次に“真実をどこまで知りたいか”。これ重要。翼神が途中で聞いてくるから、“やっぱりなし”はナシだから気を付けてね。
そして最後に三択が出ます。隔離の方法なんだけど、元の世界・転生・消滅から選んでよ、ね?」
ね?じゃねえよおっさん。
「なんか話す気失せたわー」
「ごめんごめん、待たせちゃったし、早口で分かりにくかったよね」
「いや、なんかもっと雰囲気というか……」
「よく言われるそれ。雰囲気大事だよね。でも大丈夫、アバターに合わせて部屋の感じ変えるから」
「おっさんが台無しにしてんだけど」
「ごめんごめん、次から気を付けるから、機嫌直してよ」
次はねえだろ……これも試験みたいなものなのだろうか。
「じゃ、アバター決めようか」
「そうこなくっちゃ」
おっさんがスクリーンをオンにすると、部屋が暗くなり、ずらりとアバターが映し出された。
神様らしい姿から、雲間の光、宇宙人、キツネまで。
ざっと見て適当に決めようとしたところ、見覚えのある姿が目に入った。
「おい、どういうことだ?」
「親近感や憧れで入れちゃいました」
スクリーンにはモズが表示されていた。
「一瞬迷ったじゃねえか、この野郎」
「刺さりました?」
おっさんは嬉しそうに聞いてくる。
「いや……やめとく」
「残念ですハイ。ではどちらを?」
「おっさんでいいわ」
「はい?」
「おっさん一択」
「困りましたね。残業ですよ、トホホですよ」
「もういいから、早く翼神と替われよ」
ようやく調子を取り戻した。
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