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『異世界アンチノミー ――翼神の箱庭――』  作者: めざしと豚汁


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104/116

104.ハッピーエンド

翌朝、エリがリッカを迎えに来た。

大司教はリッカと交代で話をすると言い、俺には部屋で待つよう告げた。


「これで、お別れなの?」


「大司教様がお決めになることですので、私にはお答えいたしかねます」


「じゃあちょっと待って」


リッカは俺に抱きつき、耳元で囁いた。


「今まで本当にありがとう。私を崇めるのを忘れないで」


そう言って離れ、俺に顔を見せないようにしながらエリに連れられていった。


俺はもっと感極まるかと思っていたが、

この場所の空気には何か含まれているのか、

湧き上がる激しい感情はすぐに穏やかに鎮まっていく。

制御に不満が湧いたが、それもすぐに穏やかさに覆われていった。


---


迎えに来たのはジラだった。


「役割分担が徹底しているな」


「そういうものですから」


「聞き飽きたよ」


---


大司教との謁見だから荘厳な場所かと思いきや、

案内されたのは普通の会議室のような部屋だった。


ただし、大司教本人は“誰もが想像する大司教”そのものの衣装を纏い、

威厳を放つ老人だった。

まあ、システムのアバターだろう。


「保護は保留」


「は?」


「保留」


大司教は書類を眺めながら教師のような口調で言った。

俺は一瞬、自由になってリッカと再会できるのではと浮かれかけたが、


「隔離は決定」


の一言で現実に引き戻された。


「どういうことだ?」


「翼神様があなたとお話をされるそうです」


「神様が居るのか?」


「ここをどこだと思っているのですか?」


「いや、教会だけど……信仰を極めないと神様の声は聴こえないんじゃないの?」


「何を仰りたいのか分かりませんね。私は忙しいので、ジラに案内させます」


追い払うような手振りで退室を促された。


---


ジラはドアの前で待っていた。


「聴いてたのか?」


返事もせず、スタスタと歩き出す。


「絶対に聴いてた」


もう“そういうもの”は卒業だ。


聖堂の大祭壇の脇の扉を抜け、小部屋――懺悔室に通された。


「ここからはお一人で。あちらの扉から地下へ降り、突き当たりのお部屋にお入りください」


「分かった」


立ち上がろうとした俺の肩を、ジラがそっと押さえた。


「私が愚弟と呼ばれるのはこういうところですね。姉さまにお話があるそうですので、そのままお待ちください。小窓が開いたらお話を聞いて差し上げてください」


---


「お待たせいたしました」


小窓からエリの声がした。


「話があるんだって?」


「リッカ様には、もうお会いできません」


鳩尾に重い衝撃が走った。


「ただし、リッカ様の未来を少しだけお伝えする許可をいただきました」


許可。

エリが何かを“頼む”という発想がそもそも意外だった。


「ありがとう。続けてくれ」


「はい。まず、リッカ様の母上はこの教会にいらっしゃいます」


「え!」


再生者なら当然と言えば当然だが、完全に失念していた。


「お心を壊されたため、教会が保護しております」


「いつから?」


「それは私には分かりかねます」


聞いても仕方ない。


「会わせてやってくれるのか?」


「はい。大司教様から、力の埋め合わせとして、リッカ様と母上をこちらで保護するよう賜りました」


「保護って……リッカは?」


「ご心配なく。修道院には通っていただきますが、昨日と同じようなお部屋でお二人で暮らせるようにと」


「そうか」


「もう一つだけ、お知らせがございます」


「ああ」


「リッカ様は……ご懐妊なさっております」


「!」


「これはお二人には残酷なお話でしょうが、お伝えするのが最善と判断いたしました」


「……混乱してるが、それは悪い話じゃない……ないんだよな?」


「ご質問にはお答えできかねますので、私はこれで失礼いたします」


「ありがとう。伝えられるなら、任せたと言っておいてくれ」


「私には判断できかねますので」


「いいよ。きりがない」


「お気遣い痛み入ります。それでは失礼致します」


小窓が閉まった。


---


俺は立ち上がり、ジラの指示通り階段を降り、白い廊下を進んだ。


エルマの門出。

リッカの母親との再会。

主人公でもないのに、上出来だったじゃないか。


残るは俺の結末だ。

扉の向こうの“神様”は、勿体ぶらずに種明かししてくれるのだろうか。


俺は、ボス部屋のような扉をためらいなく押した。


異世界編、終幕。


---

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