102.回収
ドアを開けると銀世界が広がり吹雪で視界が悪い。俺とリッカは服のせいでゾンビコスプレそのものだった。システムに会えたらホスピタリティについて丸一日説教してやると決意しながらリッカと支え合いながら雪道を踏み出した。
しばらく歩くと吹雪は止み陽射しの反射の輝きの中に2つの影が立っていた。
「ああ、お前らか」
「お久しぶりですカゾヤマさん」
エリとジラだ。
「塔には来ないんじゃなかったのか?」
「ここは、灰都ですよ?」
ジラが首を傾げた。相変わらず口が減らない。
「愚弟、カゾヤマさんたちはそうした問答をなさりたいわけではありません」
「失礼致しました。今日は大司教の命でカゾヤマさんを回収に参りました」
回収?えらくぞんざいな物言いをする。
「エリ?」
「愚弟の言葉に偽りはございません。私たちはカゾヤマさんを回収に参りました」
「回収ってなんだよ?」
双子はお馴染みの仕草で不思議そうにこちらを見て、エリが口を開いた。
「カゾヤマさんは教会の保護対象になりましたよね?」
「知らねえ」
「いえいえ、以前ご説明しましたよ?気の触れた方は教会が保護するとお話しましたが、お忘れでしょうか?」
「何?さっきは戸惑ったが今はもう大丈夫だ。ネオンと話してすっきりもした」
「愚弟」
「カゾヤマさんは大虐殺をした自分が正常だとお思いなのでしょうか。もしそうであれば、それが気の触れている証左ですよ?」
「なっ!」
「では、あのようなことの合理性を是非ご説明してみてください」
「あいつらは、罠にかけて村を焼いて…」
「カゾヤマさん、善悪や正義など相対的なもので合理性とはなんの関係もありませんよ?」
まあまあ、落ち着いてといった態度で優しくジラが制止した。
「あなたは、これからどうやってこの世界で生きていくおつもりでしたか?」
「それは…」
「待って!カゾヤマは命令されたの!」
リッカが割り込んだ。
「リッカさん、我々の手違いを先ずはお詫び致します。ですが、カゾヤマさんとのお話に口添えなさるのはおやめください」
「そんな言い方、」
ジラは氷の一瞥でリッカを黙らせた。
「カゾヤマさん、どうやって生きていくおつもりでしたか?それは合理的判断だったでしょうか?」
「…」
「人間は過ちを犯します。そして罰し赦すことで社会の秩序を保っています。ご存知ですよね?」
「…ああ」
「カゾヤマさんは、他人に命令されあのようなことをなさった。そこには怒りをぶつける欲求もあったでしょう。ですが、あれは正常な人間にできる行為でしょうか?」
「俺は…」
「ゲームの魔王のようになりたかったのでしょうか?公爵に命令されて戦場に出てあなたに殺された兵士は4000人といったところです」
俺は返す言葉もなかった。
ジラにどれだけ感情をぶつけたところで響きも跳ね返りもしない。
目の前の存在は深淵なのだ。
「まだ、説明が至らないでしょうか?」
「愚弟、そこまでです。カゾヤマさんは理解なさりました」
エリに代わった。
「…保護されるとどうなる?」
「世界からの隔離、平穏な暮らしをしていただくことになります」
「リッカとは会えるのか?」
「隔離ですからそれは無理です」
「なら、行かねえ」
「その選択肢はありませんよ?それが、回収です」
リッカが動きエリに掴みかかった。が、すり抜けてリッカは雪に倒れこんだ。
「!?」
起き上がり脚を捉えようとしてまたすり抜けた。
「無駄ですからもうお止めください」
エリは笑顔を崩さずリッカに告げた。
俺はリッカに駆け寄ろうとしたが、ジラがいつの間にか目の前にいてトンと胸を突かれ尻もちをついた。
「愚弟」
「そうでした。先に力を回収させていただきます」
次の瞬間俺の左眼には黒いナイフが突き立っていた。
「ギャア!ん…痛くねえ?」
「我々は人を罰するものではないですよ?翼神様がカゾヤマさんにお貸ししたものを返却する役目を果たしたに過ぎません」
「お前ら、一体何者なんだ…」
「それも前回申し上げましたよ?」
冷たいハーモニーが聴こえた。
「私たちは『そういうもの』です」
「さあ、寒いでしょうからそろそろ参りましょう。光の道」
エリがそう言うとこの世界に来て初めての魔法が顕現した。
雪の上に文字通り光の道ができ両側を無数の光の柱が世界を隔絶している。
にこやかに手を差し伸べる双子の圧倒的埒外に俺とリッカは逆らう気力を喪失した。
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