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俺は夢を見ている。
ベッドの隣には、リッカが寝息を立てている――
「ついに俺もイカれたか」
塔のベッドを降り、未練が創り出した幻覚を揺り起こした。
「ん……どこ? カ、カ、カゾヤマ!?」
リッカは飛び退き、シーツを巻き付けながらベッドを転げ落ちた。
「私……アズィに……」
「すげえな。妄想ってこう見えるんだ」
「妄想? 何それ」
「夢みたいなもんだよ」
「そう……なの? ところで何か着なさいよ」
「ああ、忘れてた。待ってろ」
冷静なリッカは俺の願望が生んだ妄想だ。
だが悪くない。付き合ってやるか。
階段脇の服を手に取る。
それは――リッカの血まみれのオーバーチュニックだった。
「リッカ大変だ!」
俺はベッドに戻り、リッカを触り倒してビンタされるまで感触を確かめた。
自分の身体を点検すると、手首の縫い跡が消えている。
「まさか俺にもクライマックス御都合ミラクル来ちゃった?」
「きっとそれが来たんだよ、ね」
いつものリッカだ。
「なあ、夢を確認する手段ってあるか?」
「知らない。私は直感頼みの女よ?」
「リッカ、ここは俺が話した塔の中なんだ。夢じゃない可能性が出てきた」
「何よそれ……」
「俺も分からないが、リッカも生き返った可能性がある」
愛のパワーでなんて甘い世界じゃなかったはずだが、もう何も分からない。
「ネオンだっけ、誰か居るって言ってなかった?」
「そうだ! リッカ服を……ああ、だめだ血まみれだった。歩けるように巻き付けて」
蓑虫からワンピースのレディに羽化したリッカを連れて階段を降りた。
俺は裸だが、この際どうでもいい。
扉を開け、例の椅子の前に立つ。
「よし、座るから何があっても落ち着けよ。少なくとも敵じゃない」
俺はリッカをお姫様抱っこして椅子に座った。
カチッと音がして、部屋全体が柔らかい明かりに包まれる。
リッカの腕に鳥肌が立った。
正面の壁に天使のようなシルエットが浮かび、天井から声がした。
「私は、翼神。人類の救済のためあなたに力を――」
「茶番はいい。ネオン出てこい」
沈黙。
シルエットが消え、ジングルと共にビビッドなアニメの翼神が映し出された。
「あれれ、なんでボクを知ってるの? ていうか何その裏山けしからん状況は!」
「お前のことはエリとジラに聞いた。チュートリアル担当だろ?」
「え? ボクを無視して外に出ちゃったの? 人間、椅子があったら座るでしょ普通」
またこれか。
「俺が変なのは分かったよ。ところで飛行機や車の映像は出せるか?」
「何だよ唐突に。君は乗り物オタクかなにかなの?」
「いいから、さっさと頼む」
アニメネオンは呆れつつ、実写映像を壁に映し出した。
「リッカ、あれを見たことはあるか?」
「何よあれ……それに動く絵なんて、カゾヤマはよく平気でいられるわね?」
完全に硬直している。
「原始人は飛行機の夢を見られない……つまりこれは夢じゃないんだリッカ」
「何を言ってるかさっぱりだけど、夢じゃない確信があるのね。分かった、これは夢じゃない」
俺を盲信できるリッカさん、すげえよ。
「ネオン、こちらはリッカだ。見ての通り現地人だが、一体どういうことだ?」
「えー、分かんないよ。でも聞いてみるよ。教えてくれるか知らないけど」
通信できるんかい。
「あー、なるほど。そうですか」
ネオンは電話をする仕草をしながら、
はいはい用件は済みましたと嫌そうに返事をしている。
俺の中でまた二律背反が首をもたげたが、
この奇跡の時間を台無しにするだけだと打ち消した。
そして、上司のうざ絡みを乗り切ったネオンは、俺たちに告げた。
「謎は解けました。続きはこのあとすぐ!」
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