10.文明の感触
翌朝、村を出た俺は順調に旅を続けていた。
弟君は宿場までの目印や水場を教えてくれ、父親は芋と固いパンを持たせてくれた。
延々と続く農地はどこも収穫が終わっており、人影はない。
人と言えば藁束を積んだ馬車と一度すれ違っただけだ。
先を眺めると、ここは高原なのか、どこまでも緩い下り坂が続き、俺は黙々と歩いて、陽が高いうちに宿場へ着いた。
どうやら俺の警戒は無駄だったようで、厳しい門番もいなければ奇異の目で俺を見る者もおらず、俺のような東洋人も普通にいるのかなと少し安心した。
宿場を歩き回ると、ここは別の街道が交わる谷合いにあり、河原には温泉が湧いているのが確認できた。
また、この宿場はちょっとした街と言ってよい規模で、道端の露店では様々な交易が行われているようだ。
路銀を手に入れた俺は、宿を探したがどこも個室は空いていなかったため、広間で雑魚寝する二等間に落ち着くことになった。
そして、今はその宿の酒場で肉の高価さにおののきながら、チビチビと蜂蜜酒--ミードを呑みつつ次の目的地を考えている。
この世界で、地図は特段禁制品ではなく、購入したものはざっくりしたものだが、 王都は七つの街や宿場を経由した先にあることが分かった。
ただ、王都に向かうことになっているのは成り行きの方便でしかない。
なんとなく塔から離れた方が良さそうな気がしたのと、
仕事や情報を得るなら都会に出るに限ると判断したのだ。
情報収集にと宿を抜け目抜き通りを散策していると、炭火焼きの良い香りが漂ってきた。
元を辿ると、露店でマスがジュウジュウと音を立てながら焼かれ、
最後にハーブと柑橘類を盛りつけて配膳している。
飛ぶように売れているところから名物なのだろう。
価格は銅貨二枚……色々見回って相場から感覚で百円程度。
宿の食堂にあった野鳥の串焼きは銅貨四十枚で諦めたが、これは買うしかない。
「鳥に比べると随分安いんだな」
「ああ、この時期は鳥は捕れないからな。普段は銅貨三枚ってとこだぜ」
保存が効かない社会の“時価”は恐るべし。
マスは香ばしい香りに未知のスパイスが効いており、
ハーブと柑橘のハーモニーが完璧だった。
露店にしておくのは惜しい気もする――そんなお節介なことを考えながら頬張り、
俺は満足して、散策を再開した。
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