1.念願の異世界は
目覚めると、見知らぬ部屋にいた。
窓のない、殺風景な石造りの部屋。中央にポツンと置かれたベッドの上で、ぼんやりと記憶を辿りながら声に出してみた。
「俺は、カゾヤマ・ノリト、28歳。出版社勤務で、昨晩は……ん? 交通事故に遭って、どうなったんだっけ」
少なくとも、ここは病室ではない。どちらかというと霊安室だが、まさかそんなはずはない。
身体に異常がないのを確認してベッドから降りたものの、服がない。
部屋の唯一の出入口であろう古めかしい木製扉を恐る恐る開けると、螺旋状の石段があり、階下へ続いていた。
階段脇の窪みに吊るされた服を見つけて安堵し、身支度を整えて階段を降りていくと、ここが塔のような建物であることが分かった。
人の気配もなければ物音もしない。不気味ではあるが、ファンタジー好きな俺は少しワクワクもしていた。
やがて階段は終わり、ちょっとした広間に出た。
最初に目に入ったのは、大きく頑丈そうな壁際の扉。玄関ドアだろうか、隙間から光が漏れている。
反対側には部屋らしき扉もあるが、まずはここがどこなのか知りたくなり、大きい方の扉を開けた。
――世界は灰色だった。
視界を遮る砂嵐で先は見えない。
足元の石畳を頼りに進むか、嵐が収まるまで中を探険するか思いを巡らせていると、背後でどこかで聞いたことのある小さな機械音がした。
「おいおい、オートロックかよ。ファンタジー台無しじゃん」
軽口を叩いてみたが、身体は正直で、毛穴が拡張するのを感じ、冷汗がどっと出た。
「マジかよ……どうやって入るんだよ、これ」
しかし、コンソールパネルもインターホンもなく、持ち物もなし。
いきなり詰んだ。
つまらない注意不足で選択肢を失い、仕方なく鼻と口を袖口で庇いながら歩き出すと、次第に風は弱まり視界が開けてきた。
そして、緩やかに降る坂道の先には――灰になった街が広がっていた。
「え、なにこれ……寝てる間に世界滅んだの?」
返事をする者などいない。
だが、声に出さずにはいられない絶望的な光景に、俺は思考停止した。
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