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篠澤広を、見た。

作者: リウクス
掲載日:2025/12/21

『学園アイドルマスター』の二次創作です。

 私は、僕は、分からない。


 高校で習った関数の解き方も。

 ボタン式電池の捨て方も。

 稟議書の出し方も。


 分からない。


 自分が得意なことも。

 自分が好きなことも。

 自分が苦手なことも。

 自分が嫌いなことも。


 分からない。


 今、何を聞いていて、何を見ていて、何に触れていて、何を感じているのか。


 分からない。


 自分のやりたいことが、分からない。


 分からないのは、怖い。

 漠然と生きているのは、恐ろしい。


 少し前のこと。

 世間で流行った歌のこと。

 何を言っているのか全く分からなかった。

 これを聴いて何を感じ取ればいいのか分からなかった。

 それでも、世界中の人がそれを絶賛した。

 たくさんの人がそれのために時間を費やした。

 彼らは分かっているから、時間を費やすことに躊躇いがなくて、何度もそれを聴いて、その度に喜びを覚えているのだろうと、思っていた。


 きっと、それを歌っている人間は、世界で一番色んなことを分かっていて、博識で、聡明で、自信に満ちているに違いないのだろうと、思っていた。


 分からないがない、何も怖くない。

 全知全能。まさしく女神のような。

 そう思っていた。


 それからしばらくして、相変わらず何も分からない自分は、ぼんやりと電子の海に浮かんでいた。


 知らない人の、知らない日常。

 知らない曲の、知らない踊り。


 そして、またあの歌が流れてきた。


 歌っているのは少女だった。


 それは、今日配信されたライブ映像だった。

 ステージの上で、女神が微笑んでいた。

 分からない言葉を歌って、分からないリズムで踊りながら。


 それを見て、やはり世界は手を叩いて喜んでいた。


 私は、僕は、結局、何も、分からない。


 私は、僕は、青白い光を浴びて、眩しさに目を閉じて、歌が、終わった。


 静寂。


 そして、女神が————よろけてその場に座り込んだ。


 息も絶え絶えに、語り始めた。


 歌の名前は、「メクルメ」。


 彼女は言った。


 「初めて聴いたとき、これどうやって歌えばいいのって——嬉しい気持ちになった」


 私は、僕は……私は、ちょっと目をひらけた。


 女神もまた、その歌のことが、分からなかった。

 分からないことが、幸せそうだった。


 私は、それも分からなかった。

 でも——そうあれたらいいなと、思った。


 私は分からない。


 高校で習った関数の解き方も。

 ボタン式電池の捨て方も。

 稟議書の出し方も。


 でも、思い出せたら、調べられたら、教えてもらえたら——。


 私は分からない。


 自分が得意なことも。

 自分が好きなことも。

 自分が苦手なことも。

 自分が嫌いなことも。

 今、何を聞いていて、何を見ていて、何に触れていて、何を感じているのかも。

 自分のやりたいことも。

 世間で流行った歌のことも。


 でも、分からないから、嬉しいこともあるって——それだけはちょっと分かったから。


 私は……彼女を()()


 やはり、分からない。言葉にできない。

 でも、目を離せない。


 だって、分からないから。

 私は知りたいから。

 あの歌のことを。

 彼女のことを。

 自分自身を。

 私を。


 そうして映像を見終えてから、分かったことが二つあった。


 多分彼女はアイドルだということ。

 だって、どう見たって可愛いから。


 それから、今日が彼女——篠澤広の誕生日だということ。

 だって、タイトルに生誕ミニライブって書いてあるから。


 彼女を見たから、目をひらけたから、私は分かった。知ることができた。


 本当に些細なこと。

 きっと世界にとっては何でもないこと。

 それでも、私は何かに気づけたから。


 「ありがとう。おめでとう」


 そんな言葉が、口を衝いて出てくるのだった。

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