8-1 sideルイス(ハヤト)
俺たちがそれぞれの前世を明かし、”恋に恋するアンリエッタ”は大団円を迎えることとなった。
ゲームではそれで終わりだが、俺たちはまだまだこの世界で実在の人物として生きていかなければならない。
まずはレイズとアンリエッタの婚約だ。
この世界にも前世での大安吉日のような縁起のいい日と言われる日があって、その日を選んでレイズはアンリエッタ一家をマッコール公爵家に招待し、家族に紹介することになった。
だが、その前にレイズはアンリエッタの両親に許可を得たいと言ってきた。
貴族が平民と婚約する場合、貴族の方から一方的に婚約したい旨を申し渡しても良いというのが、この世界での常識だ。
それでも前世の世界に大きな身分差がなかったため、レイズはそうはしたくないとのことだった。
「ちゃんとアンリエッタのご両親にご挨拶してから、うちに招待したいんだよ」
とレイズは言った。
普段のレイズの砕け方を考えると、アンリエッタのご両親に失礼な物言いをしかねないと心配した俺は、レイズについていくことにした。
「んもー、ルイスってば心配性なんだからー」
レイズは頬を膨らませて文句を言った。
「…そんな調子でしゃべったらまずいから、俺もついてくって言ってんだろ」
俺がそう言うと、
「じゃルイスがお父さん代わりってことで」
レイズはへらへらと笑った。
…マジで心配だ。
レイズと俺がアンリエッタんちを訪ねることは、先にアンリエッタからご両親に伝えてもらうことにした。
そして約束した日、俺たちはラモー家を訪問した。
「これはっ…ルイス王太子殿下っ…レイズ様、ようこそお越し下さいましたっ…!」
ラモー夫妻はかしこまって…というより恐れおののいて礼をした。
なので俺は
「私はレイズのつきそいなので、そのようにかしこまらずとも良い。とにかくレイズの話を聞いてやってくれ」
と彼らに言った。
「はっ…仰せのままに…!」
またラモー夫妻は礼をした。
もういいっつーの。
ラモー家の応接室は貴族のサロンぐらいにはきちんと整えられていて、見劣りしないほどだった。
さすがに国内一、二を争う裕福な商家だ。
俺とレイズはソファに座らされ、向かいのソファにはラモー夫妻とアンリエッタが座った。
そしておもむろにレイズが口を開いた。
「学園祭の時に母上にはお目にかかりましたが、父上にはお初にお目にかかります。マッコール公爵家次男レイズと申します」
ラモー夫妻はおどおどと頭を下げ、アンリエッタの父親が
「ご丁寧なごあいさつ、痛み入ります…」
と言った。
「本日こちらに伺ったのは、貴家のご息女アンリエッタさんと僕との婚約をお許しいただくためです」
レイズが言うと、
「…当家にはもったいないご縁でございます…」
アンリエッタの父親は、また頭を下げた。
そして続けて、
「…本当に本当に…ありがたいお話ではございますが…アンリエッタは当家のひとり娘でございます…」
消え入りそうな声でそう言った。
あっ…そうだった。
アンリエッタはゲームでもひとり娘って設定だったらしい。
ゲームではレイズルートをクリアしたらそれで終わりだったってことだが、現実ではアンリエッタがひとり娘だってことがネックになるのか…!
レイズは言葉に詰まり、固まってしまった。
レイズもこういうのは予想外だったんだろう。
「…それは…マッコール公爵家との縁談は受けられない…ということか?」
と俺が言うと、
「めめめめっそうもございません!!」
とアンリエッタの父親は慌ててそう言った。
そこまで黙っていたアンリエッタの母親が口を開いた。
「レイズ様とアンリエッタの間に生まれた子を、我が家の跡取りとして頂けないか…ということでございます」
アンリエッタの母親の言葉に、俺たちはフリーズした。
子供作らず一生幸せに暮らすって話じゃなかったのか?!
どーすんだよレイズ、アンリエッタ!!
第7章で大団円で終わった後の話が第8章から始まります~




