7-11 sideゴードン(ニシダ先生)
夜が明けたので、いつも通り俺は寮から出て走って前庭を通り、中庭を五周した。
ヘイワード家の男は騎士になるしきたりなので、寮に入っていても鍛錬は怠らない。
これは前世で剣道に励んでいた頃から変わらない毎朝の日課なので、苦にはならない。
俺がひと通り走って戻ると、そろそろ寮生たちが登校しはじめる時刻になった。
男子寮の入り口に入ろうとすると、女子寮の入り口に誰かがいた。
見ると、例のクラリアだったので、俺は声をかけることにした。
「おはようクラリア、早いな」
俺が笑って話しかけると、
「ひえっ!おっおはようございます…」
クラリアはびくっとしてから挨拶を返してきた。
「いつもこんなに早いのか?」
と尋ねると、
「は、はい…早く行かないと…その…みんなが来ちゃうので…」
クラリアはそう答えた。
学園で孤立しているというクラリアは、恐らくだが大勢がいる教室に入っていくのが怖いのだろう。
なので俺は
「そうか、じゃあちょっと待っててくれ。俺と一緒に行こう」
と言ってみた。
「えっ…えええええ?!」
クラリアは驚いて大声で叫んだ。
運動用の私服から制服に着替えて急いで寮を出ると、クラリアはちゃんと待っていた。
「おう、待たせたな!じゃ行くか!」
俺の言葉に
「はっ、はいい…」
クラリアはびくつきながらも返事をしてくれたので、俺たちは並んで歩いて前庭を通り、校舎へと向かった。
玄関に入ると教員室があり、その隣が俺たちの一年1クラスだ。
「で…では…」
とクラリアが頭を下げるので、
「ん?クラリアの教室まで送るぞ?」
と俺が言うと
「ひええええぇ…!」
と彼女はまた驚いて妙な悲鳴を上げた。
…ホントに俺のことが好きなのか…?と俺は不安になってきた。
二年1クラスまで廊下を歩いていると、女子たちが何やらひそひそと話している。
「レイズ様の次はゴードン様…?」
「まあ…次から次へと…」
そんな話がクラリアの耳にも入ったようで、クラリアは身を小さくしながらとぼとぼと歩いていた。
なので俺はひそひそ話をしている女子たちに
「おい、人の陰口は良くないぞ」
と、ちょっと叱るような口調で言ってしまった。
前世の職業病だ。
「も…申し訳ありません…」
と謝る女子たちに
「俺はクラリアと仲良くなりたいと思っている。だから、俺の方からクラリアにくっついているんだ」
俺が言うと、
「えぇーっ?!」
と、女子たちだけでなく、クラリアも驚いた。
そんなにも驚くことだろうかと思ったが、ふと俺は気づいた。
俺は子爵家の人間だが、クラリアは上位貴族…伯爵令嬢だ。
「ああ、そうか。俺の方が身分が下なのにクラリアに近づくのは無礼ということだな?」
俺がそう言うと、
「そっそんなことはございませんわ!」
と、また女子たちとクラリアは口を揃えて言った。
「そうか、身分の差は見逃してくれるか」
俺が笑うと、
「朝っぱらから何やってんだよゴードン」
とルイスが話しかけてきた。
「おはようございますゴードン様」
ルイスの隣からハリエットが挨拶してきた。
「おお、おはよう。クラリアを教室まで送っているんだ」
俺が言うと、ルイスは
「ああそうか。ちゃんと送り届けるんだぞ」
と言って、ハリエットと一緒に一年1クラスの教室に入っていった。
「じゃあ行こうか、クラリア」
俺の言葉にクラリアは赤くなってうなずいた。
素直ないい子じゃないか。
…おっと、前世は大人の女性だったらしいのに、子ども扱いは失礼か。
昨日届く予定だったドラクエが届かなかったので、今日も二本アップです。←




