6-14 sideレイズ(マユ)
父が完全に白旗状態になっているところに、さらにルイスは言った。
「アンリエッタ・ラモー嬢は、とても賢く情深い女性だ」
腰が抜けたようになっていた父は、ルイスを見上げた。
「彼女は裕福な商家の娘であるので、貴族社会での常識などもしっかりと心得ていて、マッコール公爵家に嫁いだとしてもなんら問題はないだろう」
話し続けるルイスに、父はもう
「はあ…さようでございますか…」
と言うしかないようだった。
「さらに申せば、アンリエッタ・ラモー嬢は私の婚約者であるオットーバッハ王国第一王女ハリエットの親友だ」
ルイスの言葉に父は
「ハ…ハリエット殿下の…?!」
と飛び上がった。
「ああ、私とレイズは親友で、それぞれの妻として迎えようとしているハリエットとアンリエッタも親友だ。この二組の婚姻に何か不満はあるか?」
ルイスがびしっとそう言うと、
「…ございません…!!」
と、父は背筋を伸ばして少し大きな声で返事をした。
やったー!ルイス、マジのマジのマジでかっこいいよー!!
父が納得した所でルイスは厳しい顔を少し緩めて
「レイナード伯爵家には父…国王陛下より書状が送られているので、公がレイナード伯とトラブルになるようなことはないだろう」
と言った。
父は心底ほっとした顔で
「さようでございますか…!」
と、そう答えた。
「私はレイズの親友なので、父からの書状で通達するより、私がじかに公と話した方が良いと判断し、こちらを訪れたのだ」
ルイスの言葉に、父はもううんうんとうなずく他なかった。
「先触れも出さず訪問した無礼は、本当にすまなかったと思っている」
ルイスが言うと父は
「と、とんでもございません!」
と慌てた。
「だが、私は私の親友と、我が婚約者の親友の窮地に、何もせずにいるわけにはいかなかったのだ…許せ、マッコール公」
ルイスは今日、初めて笑った。
すると父も緊張が解けたようで、
「殿下は…本当に情にお厚いのですな…」
と頬を緩めてそう言った。
私はうれしくってうれしくって仕方なくなって、父がすぐそばにいるのも忘れて
「ルイスー!助かったよー!ホントにありがとねー!!」
と砕けた調子でルイスに言ってしまった。
父は”これ!”とたしなめるような顔をしていたけど、
「何言ってんだよ、俺とハリエットもお前とアンリエッタに色々助けてもらったんだから、これでおあいこだろ」
ルイスもいつもの調子で答えたので、父の顔も治まった。
「僕らはたいしたことしてないよー。今回の件ではルイスにおっきな借りができちゃったし、きっといつか恩返しするからね!」
私が言うと、父はうんうんとうなずいた。
ルイスは
「お前はゴードンとルードと並ぶ俺の将来の側近候補だからな。いつかと言うなら、俺が王太子として…陛下の代理として色々なことを任されるようになった時…その時に俺を助けてくれればいい」
とそう言って笑った。
ルイスの乗った馬車を見送った後、父は私に
「では…アンリエッタ・ラモー嬢ならびに彼女のご両親と話をしなければならないな」
と真面目な顔で言った。
ルイスのおかげで父もアンリエッタとのことを認めてくれたので、
「はい。善き日を見つくろい、ラモー一家を我が家に招待したいと思います」
私も真面目に答えた。
「ですが父上…兄上への縁談もまだだったはずですよね?なぜ僕の方に先に縁談話が持ち上がったのでしょうか?」
私が尋ねると、父は
「レイナード家から話が来たのだ」
と答えた。
そして
「レイナード家のクラリア嬢が、レイズとの婚約を強く望んだそうだ」
と言った。
…まさかと思うけど、クラリアも転生者とか…???
これにて第6章終わりです~。次からは大団円に向けての第7章になります。




