8 sideシモン(ユウキ)
俺の前世は可もなく不可もなかった。
いや、人によっては充分いい人生だと言うだろう。
俺はごく普通の家庭に生まれて両親にも姉にも愛されたと思う。
だが、ごく普通の家庭の中でも俺は異端だっただろう。
それは、俺が生まれつきのゲイだったからだ。
人間は生まれた時から、男なら男脳、女なら女脳らしいが、約10%の割合で男なのに女脳、女なのに男脳で生まれてくることがあると聞いたことがある。
だとしたら俺は確実に後者だった。
人間は大体三歳あたりから恋愛という感情が芽生えるようで、保育園でも「誰それちゃんが好き」だのどうだのと言い出すものだが、俺はその頃から女じゃなく男が好きだった。
保育園児の頃、俺が同じクラスの男児を好きだと言った時、先生は
「あら、ユウキくんはリョウくんと仲良しなのね~」
と言ったが、俺の彼に対する感情は友情ではなく恋だった。
その時点では俺は俺をおかしいなどとは思っていなかったが、成長するにつれて俺は他のやつらとは違うのだと理解するようになった。
なのでその後ずっと俺は、同じ男に対して恋愛感情を抱いてもそれをひた隠しにして生きてきた。
そんな俺が初めて本気で誰かを好きになったのは、高校生になった時だ。
中学でも報われない片想いをしては諦めてを繰り返してきた俺の前にそいつは現れた。
同じクラスのハヤトというやつだ。
オタクという人種はスクールカースト上位になることなどないと思っていたのだが、ハヤトはオタク系でありながら、そのルックスや人柄であっという間にクラスのカースト最上位になった。
ハヤトと仲の良かったユウヤもオタク系で、腐女子のマユとリオも完全オタクだったのだが、皆オタクらしからぬ明るさや人当たりの良さでクラスの人気者になったのだ。
俺もそうルックスが悪いわけでもなく、人に合わせるすべも持ち合わせていたので、他の何人かとグループになり、クラスの第二カーストグループのようになっていた。
ハヤトは俺たち第二グループにも優しく気さくで、女子にとんでもなくモテていた…が、ハヤトが特別扱いしているやつがいることにも俺は気づいていた。
それはハヤトのグループのユウヤだ。
ユウヤもハヤトに劣らずルックスが良く性格も良く、ゲイ的見方で言えばいわゆる「お似合いの二人」だったが、ユウヤにはその気がなかったのかカップルではなく親友といった雰囲気だった。
ハヤトの片想いなら、そのうちチャンスが来るのでは?と思った俺は、修学旅行というイベントに賭けてみることにしたんだ。
ハヤト達のグループが四人かたまって席を取ったバスの中、俺は俺のグループでそのすぐ後ろに席を取ったが、修学旅行先のスキー場に向かう途中でそのバスが大事故を起こし、俺は死んでしまったらしい。
ハヤトに気持ちを伝えられないまま死んでゆくことを俺は激しく後悔した。
薄れゆく意識の中
「せめて…せめて生まれ変われることがあるなら、今度こそハヤトのそばに…」
と、ひたすらそう願っていた。
そんな俺の気持ちを神様がすくいあげてくれたのか、俺は異世界に転生した。
そう、「恋に恋するアンリエッタ」という乙女ゲームの世界で、攻略対象の一人として転生していたハヤトの弟として。
俺が三歳になった頃、ハヤトから「転生者では?」と尋ねられた俺は、自分の前世と、前世でハヤトに恋していたことを明かした。
ハヤトは驚いていたが、どうも喜んでくれたというより落胆していたように見えた。
当然だろう、ハヤトはユウヤに恋をしていたんだから。
それでもこの世界でハヤトに最も近い存在として俺は生まれてきた。
弟という立場は、恋愛的には決して有利なポジョションではない。
それにハヤトが好きだったユウヤがこの世界に転生している可能性もゼロじゃない。
でも…それでもいい。
ハヤトに近い立場に生まれてきただけでも俺は…俺は幸せだ…
シモン(ユウキ)…純愛ですねぇ。熟練の腐女子なら兄弟カプでもおいしくいただけそうですがw




