6-2 sideハリエット(ユウヤ)
学園祭でたくさんのお菓子を殿下と二人で食べた後、私はお腹が痛くなってきました。
その時です。
殿下が私に
「ハリエット、好きだよ」
と仰ったのは。
お腹の痛みに気を取られていた私は、殿下のお言葉の意味を測りかね、数瞬考えてしまいました。
そしてそのお言葉の意味を悟った私は、本当に…本当にうれしい気持ちになったのですが、もはやお腹の痛みは限界を迎えていました。
なので殿下のお言葉に対して気の利いたお返事をひねり出すこともできず、
「さ…さようでございますか…」
と申し上げ、真っ赤になってうつむく他ありませんでした。
そして、前庭からなら校舎のお手洗いに走るより、寮に戻った方が早いと判断した私はおもむろに立ち上がり、
「わ、私、寮に戻りますわ!」
と言い残して走って寮に戻ったのです。
殿下がお気を悪くなされたのではないかと思いつつも、私は必死に寮の自室に戻り、お手洗いに急ぎました。
便座に座ってほっと息をつきましたが、なんの沙汰もありません。
お腹を壊したのではないの?と不思議に思った私は立ち上がり、便器の中を眺めました。
そこにあったのは、少量の血でした。
前世男性であった私には、何が何だか分からず、もしや病気では?と不安になりました。
ですがもしやこれは、女性特有の生理というものなのでは?
そう気づいた私は侍女を呼ぼうとしましたが、侍女にこのようなことを相談するのはどうなのかと悩みました。
そこで私は、女生徒の中では一番仲が良いと言えるアンリエッタ様に相談しようと思いつきました。
なので部屋に控えていた侍女に
「今すぐ学園に行って、アンリエッタ・ラモーさまをお呼びして」
と頼みました。
「かしこまりました」
侍女は何故とも聞かず、すぐに学園に向かってくれました。
数分の後、侍女に伴われたアンリエッタ様がいらっしゃいました。
私に礼をして、アンリエッタ様は
「ハリエット様、至急の御用とうかがいましたが、如何なされましたか?」
と心配そうに仰いました。
「お忙しい所申し訳ございません…私…私、どうしたらいいか…アンリエッタ様しか頼る方がいなくて…」
泣きそうになりながらアンリエッタ様にそうお伝えすると、アンリエッタ様は何かを思いついたようなお顔をなさり、
「ハリエット様…乙女になられたのですね?」
と、そう仰いました。
この世界では、生理が始まることを”乙女になる”と言うのだということは、母上から少しうかがったことがありました。
それをアンリエッタ様にお伝えすると、アンリエッタ様は
「母上様は、乙女になられたらどうすべきなのかは教えて下さらなかったのですか?」
と仰いました。
なので私は
「あの…”乙女になったら、母に申せ”と言われておりました…」
とお答えしました。
アンリエッタ様は天を仰いだ後、
「承知いたしました。では私が何もかもお教えいたしますわ!」
と、左手の手の平を胸に当てて微笑まれました。
なんと頼もしい…
それからすぐにアンリエッタ様は私を便座に座らせ、自らは走ってご自宅に向かわれました。
そして両手にたくさんの色々なものを持って戻られ、私に説明してくれました。
「これは出血しているところに当てるための布製の生理用品です。裏面にはロウなどで防水加工しておりますので、これを下着の中に当てていれば下着は汚れませんわ」
「そしてこちらは我が商会で最近取り扱うことになった、生理用の下着です。こちらも防水加工済みなので、生理用品と合わせて使えば漏れもなく安心ですわ」
アンリエッタ様は次々と品物をご説明くださり、使用後のお洗濯方法などは侍女にも説明してくださいました。
「こちらの丸薬は痛み止めです。どうしても痛みでお辛い時は一粒だけお飲みください。ただし一日三粒までと定められておりますので、お間違いなきよう…」
至れる尽くせりなアンリエッタ様に、私は深く感謝しました。
「本当に、本当にありがとうございます…」
お礼を言った私に、アンリエッタ様は
「これが今回のお代になります」
と請求書を差し出されました。
「さすがは商家のご令嬢ですわね」
私が笑ってお支払いすると、
「今後ともごひいきにお願いいたししますわ」
アンリエッタ様はにっこりと微笑んでから去って行かれました。
そして私はしばらく、学園の生理休暇を使って休学することになったのです。
…女性って大変ですわ…
前世男性だった私はつくづくそう思いました。
下書きで書ききれなかった分を入力時に足したりしています。もうちょっとちゃんと考えて下書きしなければ…と、毎度反省しきりです。←




