5-13 sideレイズ(マユ)
私たちの小冊子はあっという間に売り切れたので、売るものがなくなった。
なので私たちは各々覗いてみたいクラスを見に行くことにした。
うちのクラスで品物が残っているのは、アンリエッタたちがしこたま作っておいたお菓子と、刺繍グループの小物類だった。
私もお菓子やハンカチを買おうかなと、買う側に回ってうちのクラスの机の前に行った。
するとルードが刺繍スペースの前に立ってハンカチを見ていた。
「ルード、ハンカチ買うの?」
と私が尋ねると、
「ああ、我がクラスの売り上げに私も貢献させてもらおうと思う」
ルードはうなずいてそう答えた。
刺繍グループの女子たちは、ハリエット以外全員ルード狙いだ。
さあ、誰の刺繍作品を買うかな?と私は興味津々で見ていた。
ルードは一枚のハンカチを手に取り、しげしげと眺めていた。
「何?ルードの気に入りそうなのがあったの?」
と私が聞くとルードは
「…これは見事な猫だ」
とうなっていた。
その刺繍をしたらしい女子が頬を紅潮させて
「ルード様のお眼鏡にかないましたか?」
と尋ねると、ルードは
「うむ、実に見事だ。まるで絵画の猫のように緻密な仕上がりだ」
と感心しきりだった。
「こちらの犬も…リスもすばらしいな」
と言ってルードはその三枚のハンカチを買うことにしたようだ。
その三枚はそれぞれ違う子が刺したものらしく、三人はめっちゃ喜んでた。
「この三枚をもらおう。いくらだ?」
とルードが尋ねると、三人は声を揃えて
「はい、三枚で三千ジェニーでございます!」
と目一杯の微笑みを浮かべてそう言った。
ルードはお金を払って、三枚のハンカチが入った紙袋を手に取った。
「ね、ルードはそのハンカチ使うの?」
と私が聞いてみると、ルードは
「いや、妹への土産にする。妹の刺繍の良き手本になるだろう」
と言った。
女子たちががっかりするんじゃ…と思ったんだけど、逆に喜んでた。
「ルード様の妹君のお手本だなんて…」
「もったいなくも光栄でございますわ」
…うん、みんなが幸せならそれでいいか。
刺繍グループの作品は招待客にも売れてて、残りわずかになった。
あとはアンリエッタのお菓子グループのお菓子だ。
アンリエッタたちはすごい数と種類のお菓子を準備していて、飛ぶように売れててもまだ余裕があった。
お菓子を買おうと列をなしてる人達の中に、ルイスとハリエットの姿もあった。
二人がどんな会話をしてるのかが気になった私は、こっそり二人の会話を盗み聞きすることにした。
ルイスが
「ハリエットはどのお菓子が欲しいんだ?」
とハリエットに尋ねると、
「どれもおいしそうなので…全部欲しいですわ!」
とハリエットは笑って答えた。
えっ全部?!と私が内心驚いていると、ルイスも驚いたようで
「ハリエットのお腹には多すぎはしないか?」
と心配そうに尋ねていた。
それに対するハリエットの答えは予想外だった。
「お菓子は別腹ですわよ!」
うふふっと笑ってそう言うハリエットは、すっごく自然で明るい笑顔だった。
ハリエットってこんな笑い方したっけ…?と私は不思議だった。
ルイスは仕方ないなという風に笑って
「じゃあハリエットが別腹に収めきれなかった分は俺が食べよう」
と言った。
「お願いしますわ、殿下」
とハリエットはすごくかわいく笑ってそう言った。
そんな軽口を叩きながら笑う二人は、どこからどう見てもラブラブカップルだった。
なんだかわからないけど、二人が本当に幸せそうだったので、私は
「お二人さん、あんまりいちゃついてると、周りのみんなが当てられちゃうよ~?」
とからかってみた。
その私の言葉への二人の返事はまた予想外だった。
「おー、当てられるなら当てられとけ」
「ですわね」
二人は顔を見合わせて笑った。
もしかして前世のことに気づいたうえでこうなったの…?
だったらすごい。
超ハッピーエンドになりそうじゃん!と私まで幸せ気分になった。
真冬みたいな寒さにキーボードを叩く手が震えるのでこの秋初めて暖房を入れました…寒いです…




