5-12 sideレイズ(マユ)
学園祭が始まり、私たち小冊子組はお客側から見て長机の左端に小冊子の山を置いた。
長机の真ん中はアンリエッタたちお菓子グループの焼き菓子で、右端はハリエットたち刺繍グループの刺繍作品だ。
一年の他のクラスだけでなく、二年三年の生徒たちも、私たちのクラスの机に集まってきた。
ハリエットの刺繍はルイスが真っ先に買い占めて行ったようで、少しスペースが空いていた。
私たちも負けずに小冊子を売らなければならない。
「どうぞ見てってくださーい!文学女子たちと僕とで創作した小説でーす」
椅子に座った売り子女子たちの後ろに立って、私は客引きをすることにした。
「中を少々拝見してもよろしくて?」
と声をかけてきたのは、紫色の学年章…三年生だ。
「どうぞー!冒頭数ページなら試し読みしてもらっていいですよー!」
うん、同人誌即売会のノリで楽しい…!
しばらく小冊子を読んでいた三年女子は
「これはっ…」
と顔色を変えた。
そして私の顔を上目づかいに見るので
「あ、ルイスとルードには許可得てまーす」
とにっこり笑って私は言った。
その声が後ろの女子たちにも聞こえたようで、女子たちが次々に集まってきた。
最初の三年女子が
「…おいくらですの?」
と尋ねてきたので
「五百ジェニーでーす!」
と私は元気に答えた。
「一冊頂きますわ」
と三年女子はお金を出して買ってくれた。
その後は早かった。
「私も…私にも一冊下さいませっ…」
「私もですわ!」
学年クラス問わず女子たちが殺到してきたので、私はスペースから外に出て
「はいはい、まだたくさんあるから、ちゃんと並んでねー!」
と女子たちを二列に並ばせ、売り子女子二人に本とお金の受け渡しをさせ、もう一人の売り子女子にはお釣りなどの管理をさせた。
マジでイベントじゃん!と私はめっちゃ楽しくなってきた。
小冊子はどんどん売れて、なんか招待客の人達…生徒の姉妹たちも買ってくれたりで、あっという間に本の山は低くなった。
私たち小冊子組の分は先にお取り置きしておいたので、机の上の分は売り切ってもOKだ。
もう一冊で売り切れ…という時、一人の男子生徒が机の前に立った。
「…私にも一冊売ってもらえるか?」
ルードだった。
私はびっくりしてルードに尋ねた。
「えっ?!ルードも欲しいの?!」
するとルードは
「当然だ。名を変えてあるとはいえ、殿下と私をモデルにした作品なら、私もきちんと読んでおきたい」
と真面目な顔で言った。
「いやいや、ルードにはモデルになってもらってるんだから、お金なんていいよ。ね?みんな?」
私が女子たちに言うと、
「そうですわよ」
「当然の権利ですわ」
と口々に同意を示した。
でもルードは
「この学園祭のバザーの売り上げは、孤児院や救貧院に寄付をするのだ。無料で受け取るわけにはいかない」
と言って、お金を渡して最後の一冊を持って行った。
ルードのくそまじめさに、私たちは呆然とルードの後ろ姿を見送った。
ルードの出番が少ないのは、前世持ちじゃないからです。結構気に入ってるので残念…




